上野のたる松へはひさしぶりに寄ったが
いくつか飲んだ日本酒のうち
たる松用の特製の春鹿も甘くて旨かったが
剣菱は酒の体がつよくて旨かった
やや黄色みを帯びた剣菱は
口に含んだはじめのうちしばらくは
最近の酒によくあるようにはじめから個性的な尖った味を
気取ることはないが
しっかりした酒の肉質のようなものが
ほどなくわかってくる
高い高級酒などではないが
むかしから有名なだけのことはあると思わされた
小学生の頃に酒蓋集めが流行っていて
一升瓶の日本酒の蓋の丸いところを集めたが
剣菱のマークは異彩を放っていた
子どもは日本酒を飲んだりしないし
正月の宴席の時などにちょっと飲まされても
苦いようなウエッとなるような味で
まったく旨くは感じなかったが
かっこよかった剣菱のマークは気に入っていた
あのマークが守っていたのがこの味かと
雨がちだった一日の終わりの宵闇のなかに
口に残る味の記憶を反芻してみていた
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