画家を志していた頃
かたちを伴わない色を描くことだけに
心惹かれていた
しかし
いくら輪郭のはっきりしない霞や
霧のような色彩の場を描いてみても
それはすでにかたちなのであり
いかなるかたちも持たない純色彩を作り出すのは
不可能であった
画家の道を捨てたのは
そのためである
とある松林のなかの小径を歩いていて
絵画放棄の決意は
ふいにかたちをとった
その時
いま此処に書いたように
「決意は
ふいにかたちをとった」というのに近い思いを
言葉で確認したのだが
自分でそれを認識しながら
私は苦笑した
「ほら見ろ
決意さえ『かたち』をとるのだ
かたちなき色では
ありえないのだ」
こう思ったからである
ところが
すぐに気づいた
「決意さえ『かたち』をとる」というのは
紋切り型の言語表現のひとつに引かれただけのことで
本当は決意には「かたち」などない
むしろ「かたち」なしに
色のようなものとして私を
決意は染めたのだ
と
それ以来
私はキャンバスを
心や意識と呼ぶべきもののほうへ移した
と言えるだろう
ひとつ大事なことは
なにかというとすぐに紋切り型へと流れやすい
言語表現も
同時に捨て去ってしまった
ということだ
とある大きな松林のなかの
清浄な雰囲気のある
いつも行き来していた小径でのことである
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