2024年9月26日木曜日

ひとつ大事なことは


  

 

画家を志していた頃

かたちを伴わない色を描くことだけに

心惹かれていた

 

しかし

いくら輪郭のはっきりしない霞や

霧のような色彩の場を描いてみても

それはすでにかたちなのであり

いかなるかたちも持たない純色彩を作り出すのは

不可能であった

 

画家の道を捨てたのは

そのためである

 

とある松林のなかの小径を歩いていて

絵画放棄の決意は

ふいにかたちをとった

 

その時

いま此処に書いたように

「決意は

ふいにかたちをとった」というのに近い思いを

言葉で確認したのだが

自分でそれを認識しながら

私は苦笑した

「ほら見ろ

決意さえ『かたち』をとるのだ

かたちなき色では

ありえないのだ」

こう思ったからである

 

ところが

すぐに気づいた

「決意さえ『かたち』をとる」というのは

紋切り型の言語表現のひとつに引かれただけのことで

本当は決意には「かたち」などない

むしろ「かたち」なしに

色のようなものとして私を

決意は染めたのだ

 

それ以来

私はキャンバスを

心や意識と呼ぶべきもののほうへ移した

と言えるだろう

 

ひとつ大事なことは

なにかというとすぐに紋切り型へと流れやすい

言語表現も

同時に捨て去ってしまった

ということだ

 

とある大きな松林のなかの

清浄な雰囲気のある

いつも行き来していた小径でのことである

 

 

 




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