引越しをかさねて
いろいろな住まいを経てきたが
おまえ
むかし買った大きな机も
いっしょに
旅を続けている
大き過ぎるほどなので
引越しの際は
ひどくかさ張るから
もう手放してしまおうかと
今度も思ったが
まだ
どっしりと
一室に場所を占めている
おまえに向ってみると
左側が壁だった時の部屋や
障子だった時の部屋
書架や本の山だった時の部屋など
どれもいまだに
それらの異なった
一部屋一部屋に
置かれているかのよう
机の前はたいてい壁だったが
ワンルームの書斎の時には
玄関に向かって
置いていたこともあった
そうして右側には
通路を挟んで
書棚が並んでいた部屋もあったし
ソファがしばらく置かれていたり
その後はカーペットの空間であったり
自転車が置かれていたりした
この間までは東に向いた窓があり
夜明けまで仕事をし続けると
上った太陽の光が一閃
顔に届いたりした
そうして
いま おまえは
おゝ、机よ
いつにもまして堂々と
部屋の中央に置かれている
壁が一面しかない部屋で
その壁を書棚に奪われてしまったから―
そういう理由からではあるが
まるで主役のように部屋の中央に
悠々と安らいでいる
高層階なので夜も
ろくろくカーテンも引かないから
おまえからは都会のビル街の
無数のあかりも点滅も
いつも見えている
オレンジに灯されたタワーも
黒く静まる中心の森も
夕暮れてしばらくのうちならば
照らし出されて
柱の影や装飾の浮き彫りになった
議会の尖塔部も見える
こんな風景を
おまえと目の前にしていることが
わたしには不思議でならない
どこがいちばんよかったのか
いまがいいのか悪いのか
想いのそんな廻り道はとうに捨てて
わたしは目の前に見える
こんな風景とはべつの
昔まだ物さえ思わない頃から
見えていた風景のほうへ
いよいよ盲人のように
あかるく暗い凝った
開き切ったまなざしを
向けようとしている