2023年1月9日月曜日

これらのたったひとつの顔だけ持って

 

 

 

近くに住んでいるので

毎年

元旦には

靖国神社に行く

 

散歩に行くのであって

初詣はしない

 

だいたい

参詣の行列は

たいへんな並びようで

なんであれ

人が長々と行列しているところには

これっぽっちも

組みしない主義なので

正月の初詣の列に並ぶことはしない

 

遊就館の奥の展示室では

無料で

刀剣の展示も行なわれていた

 

こちらは

ガラ空きである

 

混んでいないところばかりに

吸い寄せられていく気質なので

自然と

遊就館の奥へ

わたしは

吸われていく

 

刀剣の展示室よりも

入口近くの展示室の壁に

戦没者たちの写真がたくさん貼られているのに

目を奪われた

 

パスポート写真よりも

ちょっと大きめの

たくさんの

の写真が

いっぱい集められて

パネルにされ

何面にもわたって

展示されている

 

多すぎて

ひとりひとりの顔を

ほんとうにしっかり見ることはできないが

それでも

ひとりひとりの顔を

少しでもちゃんと見ようと

立ち止まったり

ゆるゆると横に進んだりして

見続ける

 

みんな

死んでしまっているんだ

みんな

どこかで

どのようにかして

殺されたり

息絶えたりした

顔だ

 

そう思いながら

見続けていく

 

現代の

そこらの日本人の顔と

まったく

変わらない

 

無骨なのもいれば

細おもてもいる

イケメンなのもいる

ユーモアのありそうなおじさんもいれば

謹厳実直そうな士官もいる

どう見ても

兵士には向かなそうな

やさしそうな

繊細そうな顔もある

 

これらの

たったひとつの顔だけ持って

生まれてきて

しばらく生きて

これらの顔を

命といっしょに

この世に捨てていった人たち

 

みんな

死んでしまっているんだ

みんな

どこかで

どのようにかして

殺されたり

息絶えたりした

顔だ

 

見続けても

見続けても

あまりに見飽きないので

困ってしまった

 

すいません

まだ

生きている身としては

長々と見ていると

けっこう

疲れるんです

足腰

疲れるんです

 

そんなことを

思いながら

近くに住んでいるのだもの

また

見に来よう

思った

 

顔を見つめる

というのは

大事なことだな

とも

思った

 

死んだ人たちの

たくさんの

顔を見つめる

というのは

 

生きている人たちの

たくさんの

顔を見つめる

というのも

 

たぶん

 






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