2023年7月20日木曜日

月かげを色にて咲ける

 

 

ついこの間まで

卯の花などのことも気になっていたのに

いつのまにか

夏至ばかりか小暑も過ぎて

暑さのさかりに

投げ込まれている

 

季節の推移に

やや遅れをとって

『後拾遺和歌集』の夏の巻を

おさらいしていると

しばらく

卯の花の歌が並ぶところに来た

 

白波に見立てるものが

中古には多く

上品ながら

さほどおもしろいわけでもないが

読人不知(よみびとしらず)で

題不知(だいしらず)の

この歌だけは

独自な美意識を湛えていた

 

月かげを色にて咲ける卯の花はあけば有明の心地こそせめ

 

月のひかりの白さを

みずからの色として咲いている卯の花は

夜が明けると

有明の月のひかりのように

なっていることであろう

と詠んでいる

 

月のひかりを

地上の卯の花に呼び下ろしているのも

美しいし

有明の月の

ほのかなひかりを

最後に想わせるのも

ひとつの歌ながら

二重に

味わいを生む

 

『後拾遺和歌集』の夏の巻を

わざわざ

暑い深更に繙かねば

出会えなかった

しずかな言葉の宝玉である

 

 




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