2023年7月6日木曜日

郵便夫にビールのませた

  

 

ある大学の教員室で

けっこう歳の行った国語の女教員が

北原白秋のことを

他の教員たちに

ずいぶんひどく語っていたのを

聞いたことがあった

 

いくつか

童謡を作っただけで

詩や

短歌なんかも

ちょっと作ったけれど

たいしたことなくて

どうしてあんな詩人が

文学史に出ているんだか…

 

そんな言い方をしていて

聞いているだけで

こちらまで恥ずかしくなった

 

好き嫌いは個人の自由としても

詩や短歌を「ちょっと作った」

などという認識は論外で

白秋を非難するレベルに

そもそも知識量も

読書量も達していない

どうしてこんな人が

国語の教員を

してしまっているのだか…

 

日本の崩壊は

こんな小さなひとつひとつ

ひとりひとりによって

着々と展開されてきていたのだ

そう再確認せざるを

得なかった

 

その大学というのは

名のみの大学のうちのひとつで

ふつうの授業で使うテキストを

まともに理解できる学生が

きわめて少ないために

中学校レベルの書き取りや漢字を

こうした国語教員に教えさせており

日本語もできない中国人を

大量に留学生として流入させて

それによって経営を維持していてもいて

そのゆえの日本語授業でもある

 

けっこう歳の行った女教員が

一方的に貶しつけた白秋は

唯一無二の美意識と

繊細な言葉使いの妙からなる

厖大な短歌を作り上げ

定型詩の枠から逃れられなかったものの

彫心鏤骨の近代詩を

相当数書き上げた

白秋が認め後押ししたことから

朔太郎も犀星も出たのだから

近代詩の創造者星群の

もっとも輝かしいひとりに違いない

 

そんな白秋には短歌もあって

それがまた

短歌や定型詩よりも自由で

のびのびとやんちゃをしている

 

初夏だ初夏だ郵便夫にビールのませた

 

など

なかなか出会えない俳句だし

白秋調がしっかり盛り込まれた

さびしさの訪れも

いっしょに詠み込まれたこの句など

どうだ!

 

温室の硝子一枚割れて夏

 

 




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