さっきまで浸っていた夢の世界は
あまりに複雑で
多層的で
どこから語ろうにも
語りようもないが
死んだ彼女が
ブエノスアイレスにでもいそうな
おじいさんになって出てきて
それでも
彼女だとわかっていて
今日はおじいさんとして出てきたのか
とよくわかっていて
なかなかしっかりした体格だが
老いて時どきふらふらするおじいさんを
夜もふけてきた頃
家に帰らせようして
小田急線の古い下北沢駅のホームに連れて行き
最終から数本前の列車に乗せようとして
彼/彼女とぼくと妻とその他の人たちで一緒に待っている
どこの駅まで行くんだっけ?
成城?
ああ、成城ね
成城学園前ってのはあったが
成城っていう駅はないよね
ないよね
でも今日は成城へ行く
そう
今日は成城に住んでいる
泊まっているんでしょ
いや、今日は住んでいるんだ
そうなの
そうなんだ
今日は住んでいるわけね
そう
そんな話をしているうちに
線路のむこうの壁に
猫の家族がいるのに気づく
小猫も6匹ぐらい器用に壁に乗って
親猫2匹と
壁の上にならんで
みな一様にこっちを向いている
猫好きの彼/彼女にそれを知らせ
ほら、猫の家族
言いながらぼくはひとりで猫たちに手を振って
おおい、ニャア、ニャア
おおい、ニャア、ニャア
猫たちがすぐそこにいてくれて
なんて楽しいんだと思うそばから
夜更けだったはずなのに
親猫2匹の真ん中の上あたりから
しらじらと空が明るんできて
なあんだ
今は昼日中だったのか
と気づくまもなく
彼/彼女もわきにいないし
妻も他の人たちもいないし
ぼくひとり
たったひとりで
下北沢ではないホームにいて
駅名を知りたくても
看板はあるもののなにも書いていなくて
けれど
昼日中で
明るいひとりぼっち
孤独といえば孤独だけれど
一緒にいたはずの人たちがすっかり消えて
いや
はじめから誰もおらず
ぜんぶ妄想か夢見でしかなかったらしいホームで
なにも書いていない看板に向かって
駅名を知りたいと思いながらも
名前なんて
駅名なんて
居場所の呼び名なんて
だんだん
どうでもよくなってきつつある
いま
そんな瞬間
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