2020年6月9日火曜日

ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ

 

仕事をしているうちに
昼になにか食べるのを忘れそうになる

忘れてもいいのだが
夕暮れに空腹をおぼえてヘンなものを食べるより
ちゃんと昼に食べておくほうが
体調はよく保たれる気がする
長年の経験からつかんでいる

かるく料理しながら
ipad経由のYoutubeから「たそがれの銀座」を流す
気晴らしには
なんといっても昭和のムード歌謡である
高度成長期なのである
ウルトラ級のノーテンキである

くっだらないなぁ、ほんとに
と思いながら聴く
こういう曲がいちばん気分にいい
『太陽がいっぱい』の最後のアラン・ドロンみたいである
もうなんの気がかりも失せた!
太陽がいっぱいだ!
と浜辺のビーチソファに寝転がって
カクテルなんかを飲む
あれである
昭和ムード歌謡は
こころのビーチソファであり
こころのカクテルなのである

♪一丁目の柳がため息ついて
二丁目の柳がささやいた
あなたの愛が目をさます…

こんな文句
よほどの恥知らずでなければ
ペラッとは言えない
「たそがれの銀座」は
このペラッと言っちゃうシリーズの
オンパレードである
詞とはこういうものか
と感心させられる
まことに詩ではないのだ
いかにどれほど詩ではないか
そこに感心させられまくってしまう
まことにまことに

♪三丁目のサロンで 待たせたままで
四丁目の彼氏に プロポーズ
それでもなぜか にくめない

どんな男が歌っている設定にしているのか
たぶんに三人称の語り手っぽくはあるが
そんなどうでもいいことを
ちょっと考えてしまうのも楽しい
語り手の男のこの軽さがいい
待たされるとか
プロポーズは他の男へとか
そんなことは色恋の基本なので
そこをちゃんと押さえた
しっかりと軽い遊び人であるところがいい

♪五丁目のフユ子は 小唄が上手
六丁目のナツ子は ジャズが好き
あなたをよんで 霧もふる

小唄ねえ
他のもののほうがいいんじゃないのか
と思いながら
あえて小唄でいいのかもしれない
たとえ現代であっても
と思ってしまうことの無為無用の
なんたる快楽

♪七丁目の酒場で おぼえたお酒
八丁目のクラブで 知った恋
あなたが夢を くれたまち

めでたく七丁目と八丁目まで来て
新橋までは行かずに見捨ててしまうわけだが
ここの最後のところは まぁ
詞としてもたいしたことはない
もうちょっと工夫したらよかっただろう
お酒を覚えたのは有楽町や新橋ぐらいにしておいて
その後で銀座に遡ってくるほうが
いいのではないか

などと益体もないことを思いながら
この歌が流行っていた頃の銀座に
子ども時代によく連れて行かれ
ほら、ここがギンザ
♪ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ
のギンザ
などと言われて
そうか、あの歌の
♪ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ
っていうのはここなのかあ
フユ子やナツ子はどこだろな
などと思いはしても 
子どもであるゆえ
不二家にしか興味を持てないつまらなさに
なんだか不完全燃焼していく心を
どうにも御しかねたものだが

ともあれ
♪ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ
の時代にまさに
四丁目や三丁目や六丁目を引っぱりまわされた
あげくの果てのガキが
昼のかるい料理をしながら
ipad経由のYoutubeから
♪ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ
と聴きながら
♪ギンザギンザギンザ、ギンザギンザギンザ
と鼻歌してしまっている

そういえば
ロス・プリモスのボーカル森聖二は2009年に物故したが
いまでもあの歌声を慕う人は絶えず
インターネット上に焼香台が作られている
チョンとお線香ボタンを押すと
画面から焼香できる仕組みである






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