2021年1月19日火曜日

40年も前に使っていたバッグ

 

浅くしか眠れないまゝ

それでもなおも横たわっていたら

意識のおもてにふいに

ひとつ

バッグが浮上してきた

肩掛けのカーキ色のバッグで

ポリエステルの表地なのか

それとも他の素材だったか

布地の中には中綿が少し入っていて

どの部分もやわらかいが

形状はちゃんと保たれている

肩にかけるベルトは青で

カバーの縁には革が張られている

 

もう40年も前に使っていたバッグで

そうだ、これを提げて

手には大きなボストンバッグを持って

実家を出奔したのだった

その後もずっと使い続けて

たぶん5年ほどは手元にあった

天気のよい日に江の島に行った時も

これを砂浜に置いている光景が

なぜだか鮮烈に残ってもいる

 

バッグの脇やカバーのところどころが

だんだん剥げてきてしまって

他のバッグと替えることになったが

いま思うとなかなか丈夫で

そんなに好きではないながらも

どうこう思いながら使い続けていた

仕事に行くのもこれで十分で

エレーヌが全粒粉パンで作ってくれた

昼食用のシンプルなサンドイッチも

このバッグに入れて出かけたものだった

 

捨ててしまってから35年は経つだろうが

なんという鮮やかさで意識のおもてに

ふいに浮上などしてきたことか

35年経ってしまったとか

捨ててしまってもう存在しないとか

そんな認識のほうが誤っているかのような

このありありとした蘇りようは何だろう

そうしてこのバッグの後に使ったはずの

新たに買ったバッグが全く思い浮かばないのは

これはまたどうしたことなのだろう





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