ときどき
トンデモ映画特集を
個人的にひとりで組んでみるような
感じに
陥る
陥ってしまう
わざわざ企画するわけでもないのだが
なぜだか
トンデモ映画連続視聴
という現象が起こってしまう
時がある
『ディラン・ドッグ:デッド・オブ・ナイト』
『パーフェクト・ワールド 世界の謎を解け』
『ヘルボーイ』
『帝都物語』
と並んで見てしまった時は
さすがに参った
どれもとんでもないクソ映画で
構想時点での発想には面白いものがあるが
それぞれに
制作中にヘタレが起こってしまって
30分を越えて60分に達するあたりで
もうもうもう
つまらない連中と乗り合わせてしまった長距離ドライブみたいにな
クソ映画なのに
馬鹿力を出して推進させていく『ヘルボーイ』
悪魔の魔女ニムエを演じたミラ・ジョボビッチの美しさに
多分に救われていたからこそ
まァ
見終えられたのかな
と思える
ロシアのSF映画『パーフェクト・ワールド 世界の謎を解け』は
発想自体は飛び抜けて面白かったのに
だんだんと創造が歪んでめっちゃくちゃになっていくのは
むかし遊園地にあった歪んだ部屋のアトラクションの
物語構造ヴァージョンといえる
そういう物語論的破綻をこそ楽しみたい観客には
これはこれでいいのかもしれないが
天才実相寺昭雄の監督した『帝都物語』は
名だたる俳優たちを取りそろえながらの沈没ぶりがまことに
まことにまことにまことに残念な映画で
実相寺ファンは彼のものならどの部分をも絶賛し
ハイル!実相寺!
な
文章もたくさんまき散らされているものの
ダメ映画はやっぱりダメ映画である
荒俣宏の原作小説を読まないかぎりは
なぜ魔人加藤保憲が東京破壊をもくろむのかわからないし
なぜ平将門の怨霊を目覚めさせて破壊しようとするのか
ほかにも使えそうな怨霊などいろいろありそうなのに
有名どころを安易にひとり使っただけじゃないのか?
などと不満が嵩じてくる中で
平将門の出し方も湿った花火ふうだし
石田純一演じる辰宮洋一郎の霊能がなんだかよくわからないし
荒俣宏の小説をやはりいい加減に映画化しようとして
ずいぶん金を使って役者を揃えて細かい細工を施したのに
がんばり過ぎて大見得を切ったはいいが
あれこれの物語や演出の糸をついに適切に調整できないまま
創造力が途中で萎えて電池切れになってしまった感じで
威勢ばかりよくて外面はずいぶん大がかりに張っただけに
なんとも哀れきわまる
まことにまことにまことに残念な映画であった
実相寺昭雄はクラシック好きでもあったから
ワグナーの『ラインの黄金』だの
マーラーの『復活』だの
ヨハンシュトラウスの『こうもり』だのを
大友直人に指揮させて
大道芸やお化け屋敷さながらのトンデモ映画に当ててくるのはわか
全編『ウルトラマン』ばりでしかない
いやテレビ版『悪魔くん』ばりでさえあるトンデモ映画に
クラシック音楽を付けてみましたが凄いでしょう?
とか言われてもやっぱり困ってしまうわけで
実相寺ファンがすかさずそういうところも褒めまくるとしても
コッポラが『地獄の黙示録』の中で
南ベトナム解放民族戦線の拠点への武装ヘリコプターの機銃掃射場
『ワルキューレの騎行』を大音量で流したほどには合っていないし
キューブリックの『シャイニング』冒頭の
ベルリオーズがアヘンを吸いながら作曲した
『幻想交響楽』第五楽章「怒りの日」の
ウエンディ・カルロスによるアレンジ版の使用ほども合っておらず
もちろんヴィスコンティの『ヴェニスに死す』冒頭における
マーラー第五番第四楽章アダージェットの極めつけの使用例などと
比べようとするのがそもそもどうかしていて
不遜の極みというものでもある
実相寺昭雄が面白い凄い人だったというのは
多くの伝説が残っているから
それはそれでいいのだが
どうも1980年代のあのノリが
日本の隅々でもはや本当の本当に壊滅し去ったということだけは
はっきり認識しておかないと
怨霊どころか
亡霊にもなれないのではないかと思えてならない
とはいえ小さなあれこれには
細かな創造的な小細工がいっぱいあって
ロボット「學天則」
東野栄治郎の次の『水戸黄門』
北海道帝国大学教授西村真琴博士は実在の人物であるばかりか
現実に日本初の人間型ロボット「學天則」を作っており
さらには俳優の西村晃は真琴博士の実の次男であるというところに
実相寺昭雄の小憎らしい悪戯心満載の埋め込みがなされている
ちなみに西村晃は戦争中に学徒動員で徴兵され
第十四期海軍飛行予備学生となり
戦争末期には徳島航空隊の特攻隊員となったが
特攻作戦の出撃機のエンジン不良で基地に帰還して生き延びた
ここで生き延びたからこそのテレビ版『水戸黄門』
月形龍之介や東野栄治郎に次ぐ第三の水戸黄門俳優たり得たのであ
この時の特攻隊員の戦友が裏千家第十五代家元の千玄室で
彼らの特攻隊員の友人たちはふたり以外はみな死んだという
西村晃は七十四歳で亡くなったがもちろん葬儀委員長は千玄室だっ
ちなみに西村晃の前の水戸黄門役者だった東野栄治郎は
築地小劇場のプロレタリア演劇研究所第一期生から始めて
東京左翼劇場から新築地劇場に移って
治安維持法違反で検挙されたり俳優座を立ち上げたりと
一本も二本も筋の通った骨のあり過ぎる俳優であった
東野栄治郎といっしょに俳優座を立ち上げた千田是也がまた凄くて
関東大震災の際に千駄ヶ谷で朝鮮人と間違われて殺されそうになっ
「千駄ヶ谷でコーリア」をもじって名を千田是也としたとか
いや実は先輩俳優の土方与志が「朝鮮とコーリャン」
そんなところから始まって
ドイツの演劇学校に留学して卒業後にドイツ共産党に入党するとか
小林多喜二の作品『一九二八年三月十五日』
虐殺された小林多喜二の遺体を引き取りに行ったりなどするわけで
スケールがずいぶんと世界的規模な人であり
ベルトルト・ブレヒトを翻訳紹介するには
そりゃア打って付けの人だったろうと納得させられる
まア
実相寺昭雄をベースにすると
すぐにこれぐらいの網の目が爆発を起こすわけで
この人物が
ひとつの豊かな配電盤や
トランジスターや半導体のようなものであることに疑いはなく
読書家で本はページをめくるだけですべて暗記したといわれる天才
早稲田大学第二文学科フランス文学専修在学中に
国家試験合格をして外務省勤務し
その後ラジオ東京に移って実相寺マジックの展開の人生を送り
長編映画第一作『無常』でロカルノ国際映画祭グランプリを受賞し
カンヌ映画祭は自前のフランス語でくぐり抜け
音楽やオペラ好きからドイツ語もよくわかり
映画テレビドラマCMはもちろん小説エッセーまでたくさん残した
この奇妙な人物に触れるとあちこちの才子や有名人たちに
終わりもなく関わり続けていくことになるが
だからといって
だからといって
『帝都物語』という映画が
とんでもないにもほどがあるトンデモ映画であるのはいいとしても
あわれなあわれな残念至極の大失敗作のつまらない映画であったこ
やはり
80年代のあのノリがすっかり吹き過ぎ去った今
忘れるわけにはいかない
が
人をクサして銭儲けをする評論家であるということでもないので
だからナアニ?
ということでもある
今となっては大失敗作のつまらない映画であっても
べつに
ドーデもいいのである
あ
そういえば
この頃
ドーデ、読んでないなあ
アルフォンス・ドーデ
あの梅毒病みの
ドーデ
『最後の授業』の
ドーデ
『月曜物語』の
ドーデ
『タルタラン・ド・タラスコン』の
ドーデ
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