2021年3月25日木曜日

このじぶんのプロだから

 

 

家のなかにはだれもいない

 

ひとり

机に向かっていて

そうして

もう

暮れがたというのに

机のわきの窓のカーテンも

まだ閉めていない

 

うすら青い

夜のはじまりの空が見え

あかりを灯したビル群が見える

 

パソコンのモニターに向かって

こうして

ぽつ

ぽつ

文字を打ってみている

 

机上にしか

あかりは灯していないから

家の中は

どこも薄闇

 

さびしくもない

 

わびしくもない

 

暮れがたの家の薄闇は

まるで

もっともしあわせな時の

こころ

そのもの

 

喩えだ

あくまで

「まるで」

ちゃんと

付けておかなきゃ

 

パソコンのモニターに向かって

文字を打ってみている

 

夢でないことは

よく

わかっている

 

窓外が

さらに暗くなったが

夜の空も

街も

まっくらになることはない

 

よく

わかっている

あれも

これも

 

このじぶんの人生の

専門家

なのだから

 

このじぶんの

プロ

だから

 

だれと分かちあうこともないが

このじぶんの生とは

これだ

 

おだやかだとか

しあわせだとか

こうであるほかないとか

どんな形容を

加える必要もない





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