むかしの歌人たちには
いつもエロスに倒れ込もうとする風情があって
いいものだった
ただのエロでは
しみったれた風俗街の常連みたいになってしまうが
だれも彼もが
勅撰和歌集のいくつかは
けっこう熟読していて
もちろん
たいていの小説は読んでいて
気の利いた評論のひとつやふたつ
書き上げた経験があって
それでいて
行為の時にはしちめんどくさい知など
けっして起動させないから
いいものだった
むかしの詩人たちには
ちょっと高い酒の香りをいつも漂わせていて
いいものだった
朝っぱらから酔っていて
たいして性欲もないくせにフリだけはして
どうせ三擦り半程度で果てるのだが
それでも行為の一部始終に
ちょっとでも嫌な気を起こさせないような気取りがあって
悪くなかった
愛人といっしょにいながら
背後ではべつの女と手を絡ませたりしていて
それを見るのも
けっこう面白くて
いいものだった
どちらにしても
品行方正からは遠くて
差別主義や権威主義や拝金主義からはいちばん遠いくせに
断じて民主党的な言辞は弄ばないし
LGBTとかBLMとか
口が裂けても叫ばない連中だった
今になってみれば
あの連中
懐かしく思える
みんな
時の流れのどこかで
からだを捨て去っていってしまった
連中
で
わたしはといえば
連中の
だれにも似ていなかった
しちめんどくさい知をいつも起動させて
まわりの観察や分析に
脳は
忙しかったかな
もう
それもやめて
ようやく
連中のほうへと
ちょっと近づき出しているかも
しれない
連中のように
やはり
時の流れのどこかで
からだを捨て去っていくまでの
この
ちょっとの
トランジットのあいだに
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