2021年3月26日金曜日

このちょっとのトランジットのあいだに

 

 

むかしの歌人たちには

いつもエロスに倒れ込もうとする風情があって

いいものだった

 

ただのエロでは

しみったれた風俗街の常連みたいになってしまうが

だれも彼もが

勅撰和歌集のいくつかは

けっこう熟読していて

もちろん

たいていの小説は読んでいて

気の利いた評論のひとつやふたつ

書き上げた経験があって

それでいて

行為の時にはしちめんどくさい知など

けっして起動させないから

いいものだった

 

むかしの詩人たちには

ちょっと高い酒の香りをいつも漂わせていて

いいものだった

 

朝っぱらから酔っていて

たいして性欲もないくせにフリだけはして

どうせ三擦り半程度で果てるのだが

それでも行為の一部始終に

ちょっとでも嫌な気を起こさせないような気取りがあって

悪くなかった

愛人といっしょにいながら

背後ではべつの女と手を絡ませたりしていて

それを見るのも

けっこう面白くて

いいものだった

 

どちらにしても

品行方正からは遠くて

差別主義や権威主義や拝金主義からはいちばん遠いくせに

断じて民主党的な言辞は弄ばないし

LGBTとかBLMとか

口が裂けても叫ばない連中だった

 

今になってみれば

あの連中

懐かしく思える

みんな

時の流れのどこかで

からだを捨て去っていってしまった

連中

 

わたしはといえば

連中の

だれにも似ていなかった

しちめんどくさい知をいつも起動させて

まわりの観察や分析に

脳は

忙しかったかな

 

もう

それもやめて

ようやく

連中のほうへと

ちょっと近づき出しているかも

しれない

 

連中のように

やはり

時の流れのどこかで

からだを捨て去っていくまでの

この

ちょっとの

トランジットのあいだに





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