2021年5月25日火曜日

水に痕なし



竹影払階塵不動

月穿潭底水無痕

槐安国語

 


 

後に近世洞門の禅傑といわれることになる

原坦山と久我(こが)環渓が

若い頃ともに行脚していて小川にさしかかった

降り続く雨で氾濫し激流となっている

丸木橋はあるにはあるが朽ちていて危ない

渡りかねて川端に立っている町家の娘もあった

 

僧たちは草鞋のまま水に入るのを決め

ならばついでにと坦山は娘に声をかける

お困りじゃろうから渡して進ぜよう

娘ははにかんで顔を赤らめたが

坦山に抱かれ無事に激流を渡った

 

娘と別れて再びふたり道を急ぎながらも

環渓は心おだやかではなかった

雲水の身というのに坦山が仮にも娘を抱いたのが気にかかる

たまりかねて坦山に

どうして出家の身で女を抱いたのか

となじるように環渓は言った

それを聞くと坦山は大笑いして環渓に言った

なんだ貴公はまだ女を抱いておったのか?

わしはさっきあの川に放してきてしまったがね

 

槐安国語に言う

竹の影が階を払っても塵を動かすことはなく

月が潭底を穿っても水に痕を残すことはない





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