2021年5月25日火曜日

トランジット

 

 

ずいぶんはっきりした夢であった

 

四畳半の下宿に住むことになった

共同廊下との間には磨りガラスの引き戸がある

日本の住宅の部屋の仕切りによくあるような

小さな正方形のガラスを集めた戸である

 

カーテンがあるがふだんは開けておいてもいい

とはいえカーテンを開けておいたからといって

共同廊下の暗さがガラス戸の向こうには見えるだけだ

これならばカーテンは閉めておいてもいい

 

室内を照らす蛍光灯のスイッチは廊下にあるので

引き戸の端をいちいち細く開けて手を出し

パチンパチンとスイッチで点灯消灯をしないといけない

深夜に寝る時にやるのはちょっと不気味かと思う

 

部屋の壁に付いている小さな丸い蛍光灯もあるが

このスイッチは室内にあるので操作は楽である

しかし点灯してみると光量は少し少なくて

これだけで夜を過ごすと暗いかもしれないと思う

 

部屋からは外に面して大きな窓と小さな窓がある

大きな窓からはよその家の天井が見えるので

この四畳半の部屋は二階にあるらしい

室内は明るいが簡易ベッドを置くと手狭である

 

いろいろなことがあった人生だったが

結局ひとりでここに住むことになったか

つくづくという感じでそう思い過ぎてきたあれこれを

思い出そうとするがまったく思い出せない

 

仲の良かった人たちもずいぶんいたし

同棲もしたし妻もあったような気がするが

誰のことももうちゃんとは思い出せない

しかしそんな人たちとの時間はちゃんとあったと感じる

 

学生だった若い頃に友人の住まいに行くと

こんな四畳半に住んでいた人たちもいたなと思い出す

人生の終わりにはふたたびこういう狭さに戻るのかと思い

これが終の住処というやつだろうかと見わたす

 

起きるともちろん四畳半にはいない心身を取り戻す

しかしあまりに現実的でリアルだったので

じぶんの魂はもうあの四畳半に移動しているのかとも思うが

終の住処ではなくトランジットと見たほうがいい感覚がある





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