2023年5月13日土曜日

栗の花のにおい

 

 

栗の木が花を咲かせていた

海ぶどうのような緑色の紐状のものが

ずいぶん長く伸びて

こういうのが栗の花だと知らないと

やけに長い毛虫がいっぱい密生しているかにも

見えてしまいかねない

 

花を咲かせていた

といっても

まだ例の精液のにおいはしていないので

蕾のまま伸びただけで

ほんとうには咲いていないのかもしれない

次に見る頃にはきっと青臭いにおいが周囲に漂って

精液のにおいを知っている人たちは

なんとなく困ったような顔をして通り過ぎていくだろう

 

栗の花のにおいを分析すると

10種類のエステルや4種類のアルコール

9種類のアルデヒドを含む計28種類の成分が検出されるそうで

精液のにおいを作り出すスペルミンC10H26N4 は含まれておらず

同様のにおいを発するスペルミジンも含まれていない

2019年の研究の成果によれば

栗の花の匂い成分としては「1-ピロリン」が主成分とわかったそうだが

化学のシロウトである一般人には

こんな成分名を言われたところでピンとは来ないものの

「1- ピロリン」はイエバエのフェロモン成分として同定されているので

昆虫たちを集めて受粉させるためのにおいであると想定される

死体の花と呼ばれるショクダイオオコンニャクやラフレシアなどは

硫黄化合物や窒素化合物を含む腐った肉のにおいを放つことで

腐肉に群がるハエなどを引き寄せて受粉の仲立ちをさせる

 

ということで栗の花のにおいは精液のにおいではないのだが

結局は受粉に結びついていくにおいだということなので

やっぱり精液のにおいじゃないかと単純な反応をしてしまうのも

ひょっとしたらそれほど間違ってはいないのかもしれない

毎年この栗の花の精液っぽいにおいを嗅ぎながら脇を通る時には

なにかといえば登場人物たちがドクドクと射精する村上春樹の世界

射精好きではハルキの先輩格にあたる大江健三郎の世界が

いつもいつも思い出されてしまって想念の流れを抑えようがない

文芸は人間のあらゆる面を描くものなのだから

ドクドク射精だってもちろん描いたらええやろということではあるのだが

人間的に魅力のない登場人物たちにあちこちでドクドク射精されて

あんまり審美的に全世界的に万人受けはしそうにないのを

ハルキストやケンザブロニストはわかってんのかしらん?と思ってしまう

想念は止まることなく村上春樹自身があの顔で精液ドクドクしてい

とありありと見えてしまってまったく困ってしまうし

大江健三郎もあの丸眼鏡して光君といっしょになって男根2本並べ

精液ドクドクしているように見えてきてしまってヤレヤレヤレヤレ

だいたい性的な場面や表象を書きたがったり描きたがったりする者

本人自身は老いや障害からインポテンツであることが多いので

ひょっとしたらハルキやケンザブローは深刻なインポだったかも?

とまで推測してしまってもうもう歯止めがかからなくなってしまう

 

大江健三郎が『万延元年のフットボール』を小林秀雄に献本した際

「こんなものがいいと思っているのかね?」と小林秀雄は切り捨てたが

小林秀雄の最低限の文芸における守りどころというものを

大江健三郎や村上春樹でしばらく汚されてきたニッポンブンガクは

そろそろ思い出して大がかりな王政復古をしたほうがいいかもしれない

精液ドクドクをあちこちで描き込まなくっても

万葉集・巻八における山部赤人のように

春の野にすみれ摘みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける

という攻め方だってあるわけで

これで十二分にわかるしこれ以上書かないというのが

作法というものだし慎みというものだったと考えたい流派もありうるはず

もちろん『宇治拾遺物語』や『古事談』系統のしどけない派も古来あって

そっちのほうから色メガネを借りてきて眺めれば

万葉集十九の大伴家持の

春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女

だってやっぱり淫猥なオジサマ文芸の粋を凝らした一首に見えてき

まるで田山花袋の『少女病』の先駆じゃないの?と思えてくる

ハルキやケンザブローなんかよりよほど栗の花のにおう感じではないか?

 





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