2023年5月24日水曜日

盥に雨を聞く夜かな

 

 

井の頭線池ノ上駅

最寄り駅

とする

借家

暮らしていた

 

なにぶん

古い一軒家だったからか

屋根のどこかが壊れて

水漏れしたことがあった

 

屋根の修理をして

水漏れはすぐに直ったが

雨の降る数日

松尾芭蕉のあの発句のような夜々が

続いた

 

芭蕉野分盥に雨を聞く夜かな

 

盥はなく

ポリバケツしかなかったので

雨滴の落ちるところにそれを置いて

床が濡れるのを防いだ

 

ポリバケツに

じかに雨が落ちると

ポコポコと音が鳴り続けて

けっこううるさい

少しでも音を小さくしようと

雑巾を中に敷いてみると

だいぶよくなったが

もちろん雑巾はすぐに濡れてくる

濡れるとまた

ピチャピチャという音がして

これも

けっこううるさい

 

寝ようとしていても

ときどき起きて

雑巾を絞りに洗面所に行く

戻ってきて

ポリバケツの中にまた敷くが

しばらくすると

雑巾はまた濡れて

ピチャピチャという音がしはじめる

 

芭蕉の聴いた音は

はじめは

木板に落ちる雨音だったか?

ポリバケツより

風流な音がしたのか?

 

しばらくすれば

水が溜まったはずだか

そこに落ちる音は

ポチャポチャ

とでもいった音を立てたか?

 

そんなことを思いながら

ろくに眠れないながら

それでも

いつか

眠り込んで朝を迎えたはずだった

 

起きた頃には

ポリバケツいっぱいに

水が溜まっていた

…などと書きたいところだが

不思議と

そのあたりのことを

まったく

覚えていない

 

水が溜まったとすれば

そこに落ちる音は

芭蕉もおそらく聴いたであろう

ポチャポチャ

とでもいった音だったはずだが

それにも

聴きおぼえがない

 




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