井の頭線池ノ上駅
を
最寄り駅
とする
借家
に
暮らしていた
頃
なにぶん
古い一軒家だったからか
屋根のどこかが壊れて
水漏れしたことがあった
屋根の修理をして
水漏れはすぐに直ったが
雨の降る数日
松尾芭蕉のあの発句のような夜々が
続いた
芭蕉野分盥に雨を聞く夜かな
盥はなく
ポリバケツしかなかったので
雨滴の落ちるところにそれを置いて
床が濡れるのを防いだ
ポリバケツに
じかに雨が落ちると
ポコポコと音が鳴り続けて
けっこううるさい
少しでも音を小さくしようと
雑巾を中に敷いてみると
だいぶよくなったが
もちろん雑巾はすぐに濡れてくる
濡れるとまた
ピチャピチャという音がして
これも
けっこううるさい
寝ようとしていても
ときどき起きて
雑巾を絞りに洗面所に行く
戻ってきて
ポリバケツの中にまた敷くが
しばらくすると
雑巾はまた濡れて
ピチャピチャという音がしはじめる
芭蕉の聴いた音は
はじめは
木板に落ちる雨音だったか?
ポリバケツより
風流な音がしたのか?
しばらくすれば
水が溜まったはずだか
そこに落ちる音は
ポチャポチャ
とでもいった音を立てたか?
そんなことを思いながら
ろくに眠れないながら
それでも
いつか
眠り込んで朝を迎えたはずだった
起きた頃には
ポリバケツいっぱいに
水が溜まっていた
…などと書きたいところだが
不思議と
そのあたりのことを
まったく
覚えていない
水が溜まったとすれば
そこに落ちる音は
芭蕉もおそらく聴いたであろう
ポチャポチャ
とでもいった音だったはずだが
それにも
聴きおぼえがない
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