2024年1月31日水曜日

あそこに立っていることが多い

 


 

しばらく住んでいたところへ

修繕が入りました

居間やキッチンのほかに

部屋数が五つあって

廊下が部屋を繫いでいる住まいです

木目を生かした柱や壁で

それ以外の壁は

シンプルな白いものです

 

床板を替えたり

壁紙を貼り替えたりもしますが

数日で終わるそうなので

ほっとしています

 

わたしは文学の話をするために

もうすぐ

出かけるところです

永井荷風に関連する話をするのですが

だいたいの構想はできていても

きょう話す内容は

まだ準備し終わっていません

もうちょっと内容を

詰め込みたい気もしているのです

メモも資料も多めに持っているので

電車の中でさらに話を練るつもりです

1時間半以上乗っていくので

考える時間は

じゅうぶんにあるはずです

 

工事責任者の人は

メタルフレームの眼鏡をかけた

目の細い

30代半ばほどの人で

わきの髪がちょっと長く

髪の先がクルッと跳ねていて

すこし神経質な雰囲気もあって

ちょっと取っつきづらい感じですが

洗面所やバスルームのまとまっているところで

急にわたしのほうに寄ってきて

「おうちの中で気になる場所はありますか?」

と聞いてきました

 

工事責任者のこの人は

こんなふうに話かけてくる時

正面からこちらを見ず

顔をちょっと横向きにするので

目が横にらみになります

細い目の中で黒目が横に滑るので

すこしお化けの目を思わせます

 

気になる

といってもどんな意味で気になるのか

わからなかったので

「そうですねえ

食事をする時にそっちの居間のほうに座り

廊下を前にした感じになるのですが

そうすると

廊下のわきのあたりなんかが

ちょっと気になる感じはあります」

と言ってみました

 

そうすると

工事責任者のこの人は

「そうでしょう

あそこに立っていることが多いですね」

と言うので

ちょっと驚きました

 

なんでも

彼の言うには

若い女性の霊で

その居間の廊下に近いところに

すうっと立っているそうです

立って居間のほうを見ている感じで

なにをするわけでもないし

不吉な影響を発しているわけでもないですが

ただそこに立っている

 

そう言われてみると

いつもそのあたりになにか感じていたので

なるほど

そういうわけだったか

とちょっと納得が行きました

 

夜遅くなって帰ってくると

工事関係者たちはいなくなっているはずなので

わたしと家族だけになるわけですが

そんな時間になると

この人が指摘した場所が

今夜からもっと気になるだろうなあ

と思われ

なんだかちょっと嫌だなあ

と感じました

 

べつのところへ引っ越すことにしても

いいのだけれど

どうしようかなあ

などとも

考えはじめましたが

居間のあの場所にただ立っているだけならば

あまり気にしなくてもいいかなあ

などとも

もちろん考えるのです

 

居間やキッチンのほかに

部屋数が五つあって

廊下が部屋を繫いでいる

ひろびろとした

いい住まいなのです

木目を生かした柱や壁で

それ以外の壁はシンプルで白い

あかるい住まいなのです

 




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