2024年1月28日日曜日

コーヒーのカプセル

 

 

 

海沿いの町に用事があり

ひさしぶりに

そこのおだやかな海のにおいに包まれた

 

用事が終わって

海の見晴らせるカフェに寄った

 

人気店だ

カフェの海側が

きれいに芝生で覆われた坂になっていて

店内でなく

その坂の芝生の上に座って

コーヒーやお茶を飲む人が多い

 

わたしも

カフェでコーヒーのカプセルを買い

カップをもらって

海の見晴らせる坂に

腰を下ろした

 

あたたかく

よく晴れた午後で

海も空も

遠くまできれいな青で染まっている

 

数人の

アラブ系と見えるビジネスマンたちが

スーツ姿でやってきて

わたしの近くに腰を下ろしたが

やはり

コーヒーのカプセルとカップを持っている

 

コーヒーのこのカプセルは

指でかるく押して外包に亀裂を入れ

カップのなかに落すと

まわりの空気から

たいへんな速度で水分を集めて

カップのなかで

どんどんとコーヒーを作っていく

カップに液体量が溜まると

こんどは自動的に熱くなっていき

うまく飲める適切な温度になる

 

だれがやっても

おなじように適切なうまさのコーヒーが

すぐにできるので

いまの世の中では

どこのカフェやレストランでも

それぞれの家でも

このカプセルコーヒーを使っている

 

海の見晴らせるこのカフェでも

だいぶ前は

サイフォンやフィルターで淹れていたが

便利で確実にうまい

失敗のないカプセルコーヒーができてからは

いろいろな種類のコーヒーのカプセルを

置くようになった

客としても

カップとカプセルだけ持って

海を背景にした小公園のような

カフェのまわりの庭に出ていけるので

とても便利になった

 

わたしは

科学技術の進歩というものを

なんでもありがたがる人間ではないが

カプセルに亀裂を入れれば

周囲の空気から

カップ一杯分の水分を即座に集める技術や

その後に水分を熱くする技術などには

やはり敬意を表したい

 

サイフォンやフィルターのコーヒーを

このカフェで出していた頃

よくひろ子や孝之と来て

店内の海の見やすいテーブルで

ケーキなども注文して

ゆっくりとおしゃべりをした

 

きみらが居なくなってから

この世界では

こんなふうに物事が変わっていったんだよ

と心のなかで思いながら

近くから聞こえるアラビア語を

切れ切れに聞きながら

海と空の青さを

たっぷりと目に収めようとし続ける


 



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