海沿いの町に用事があり
ひさしぶりに
そこのおだやかな海のにおいに包まれた
用事が終わって
海の見晴らせるカフェに寄った
人気店だ
カフェの海側が
きれいに芝生で覆われた坂になっていて
店内でなく
その坂の芝生の上に座って
コーヒーやお茶を飲む人が多い
わたしも
カフェでコーヒーのカプセルを買い
カップをもらって
海の見晴らせる坂に
腰を下ろした
あたたかく
よく晴れた午後で
海も空も
遠くまできれいな青で染まっている
数人の
アラブ系と見えるビジネスマンたちが
スーツ姿でやってきて
わたしの近くに腰を下ろしたが
やはり
コーヒーのカプセルとカップを持っている
コーヒーのこのカプセルは
指でかるく押して外包に亀裂を入れ
カップのなかに落すと
まわりの空気から
たいへんな速度で水分を集めて
カップのなかで
どんどんとコーヒーを作っていく
カップに液体量が溜まると
こんどは自動的に熱くなっていき
うまく飲める適切な温度になる
だれがやっても
おなじように適切なうまさのコーヒーが
すぐにできるので
いまの世の中では
どこのカフェやレストランでも
それぞれの家でも
このカプセルコーヒーを使っている
海の見晴らせるこのカフェでも
だいぶ前は
サイフォンやフィルターで淹れていたが
便利で確実にうまい
失敗のないカプセルコーヒーができてからは
いろいろな種類のコーヒーのカプセルを
置くようになった
客としても
カップとカプセルだけ持って
海を背景にした小公園のような
カフェのまわりの庭に出ていけるので
とても便利になった
わたしは
科学技術の進歩というものを
なんでもありがたがる人間ではないが
カプセルに亀裂を入れれば
周囲の空気から
カップ一杯分の水分を即座に集める技術や
その後に水分を熱くする技術などには
やはり敬意を表したい
サイフォンやフィルターのコーヒーを
このカフェで出していた頃
よくひろ子や孝之と来て
店内の海の見やすいテーブルで
ケーキなども注文して
ゆっくりとおしゃべりをした
きみらが居なくなってから
この世界では
こんなふうに物事が変わっていったんだよ
と心のなかで思いながら
近くから聞こえるアラビア語を
切れ切れに聞きながら
海と空の青さを
たっぷりと目に収めようとし続ける
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