2024年1月6日土曜日

だれにとっても他人事ではない末世

 


 

大きな災害が起こると

ことばの飛び交うあちこちの界隈では

「こころは寄りそっています……」とか

「お祈りしています」とかが

大量消費される

形式だけのことばをとりあえず送っとけ的な

年賀状やクリスマスカードの世界が

そのまま災害後のことば界隈には出現する

 

祈祷や呪術のほんとうの実力もない一般人に

ことばの上だけの「お祈り」などされたら終わりだ

 

「こころ」だけ「寄りそって」もらっても

困っている現場には

ちょっとの飲み水程度はあっても

汚れた髪の毛を洗うほどの水量はない

洗い落とし不要シャンプーだって

こんな時に都合よく手元にあったりはしない

男女問わず老若問わず

たった一日洗髪やシャワーしないだけでも

いわゆるオヤジ臭の温床となるのが

髪や頭皮や耳の裏や首まわりや脇の下や……

ようするに全身だから

どんな美女もイケメンもオヤジ臭ぷんぷんになるのが

甚大災害の場所ということになる

 

目ヤニぐらい指先で除けるが

汚れて白っちゃけてくる顔を

贅沢に泡立てたシャボンで洗う水量はない

乾燥肌のひとや肌荒れしがちなひとが

たっぷり顔に付けられるほどの化粧水もない

フェイスクリームだって倒壊家屋の下だし

ヘアードライヤーもぶっこわれてしまっているし

カールアイロンだってどこに行ったかわからない

見つかったところでだいたい電気が来ていない

 

それよりなにより

飲む水の量や食べる量を減らすことはできても

おしっこやうんこを我慢することはできない

飲食の量が減っても出るものは出るのだ

だいたい災害前まで飲み食いしていた分が

しっかり腹には詰まっているので

どうしたって時間とともに押し出されてくる

集団避難所で隣りあって座っていても

ガスも実もどんどんお腹のなかを移動し

はじめはなんとか「スー」とごまかしていたおならも

だんだんと「ブウブウ」「ビビビ」と出て来る

ビビビのネズミ男だなんて冗談を言っても止まらない

 

ふだんなら「ちょっと失礼」なんてお上品に言って

そそくさとトイレに駆け込んだりするけれど

激甚災害の現場ともなると

落ち着いて糞尿をぶちまけられるトイレが足りない

トイレはあっても水は出ないし

水が出なくてもみんなのうんこは出る

「なんとか工夫しましょう」とか言ってられる余裕があるうちはいいが

余裕のあるなしにおかまいなく出るのは糞便放出タイミングというもので

災害地ではしかたなしに水の流れない便器に出すことになる

自宅に居てひとりならば「やれやれ……」で済まし

風呂に溜めていた水をバケツで掬ってきて流したりもできるが

たくさんのひとがいる避難所のトイレでは

じぶんが放出した糞便の上に次のひとの糞便が重なっていく

三人四人ぶんなら「けっこう山になるなあ」で済むが

十人二十人三十人の分ともなれば

どこぞの大食いチャレンジ超大盛り天津丼のようになる

天津丼だったりカレーだったりカツカレーだったりする

 

「こころは寄りそっています……」とか

「お祈りしています」とか言うなら

トイレの天津丼やカレーやカツカレーに参加してみろ!

などとどうしても思ってしまうのだ

山積みのうんこにお祈りしてくれ!

水の流れないトイレの臭いに寄りそってくれ!

そんなお下品なことをけっしていわない被災者たちには

いつもどこでもなんどでも感心してしまうが

これからさらに多発するはずの甚大災害の連続のなかで

どこまでそんな控えめさが続いていくかな?

だれにとっても他人事ではない末世の2024年から2032年は

いま始まったばかりである

水洗でないトイレをたくさん作るプロジェクトあたりから

国家規模で始めないと

明日は我が身の天津丼!

カレー!

カツカレー!






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