2024年1月7日日曜日

名古屋市守山区矢田川沿い


 

 

三階まであった

コンクリート製のアパート

大きな川沿いにあって

上れば見晴らしのきく屋上もあった

 

全体の印象は

コンクリートの白っぽさや

グレーっぽさ

 

住んでいた“うち”は

2階にあった

 

4戸か5戸しか

各階にはなかったはずだが

コンクリートの階段を上って来ると

小さな子どもには

コンクリートの堅牢な通路が

けっこう長く

むこうまで延びている

 

幼稚園にも上がらない

幼年時

そのコンクリート通路は

三輪車で行き来をくり返すのに最適の

りっぱな子ども道路だった

 

住んでいた“うち”に入る時

愛車の三輪車は

玄関のドアの前に置いておいた

ように記憶している

 

玄関

といっても小さく

といっても鉄製のありふれたドア

そこから

廊下

といっても廊下のようなもの

細く

短く

が延び

奥の居間に行き着く

 

居間は

父母の寝室

 

幼稚園にもまだ行かない私は

廊下に置かれた

木組みの子どもベッドに

頭を居間のほうに向けられて

寝かされた

ベッドから左手を見ると

小さな台所が見える

 

居間は六畳

居間のサッシ窓のむこうには駐車場

なかなか大きな駐車場

 

駐車場の奥の壁際には

カラタチだっただろうか

山椒だっただろうか

幼稚園年少組の子どもの胸ぐらいの小さな木があり

春から夏には

たくさんアゲハの幼虫が付いた

 

コンクリート製のアパートは

川沿いのコンクリート業者がオーナーだった

アパートの前には

下水道などに用いるコンクリート製の大小の土管が

いつも

いっぱい置かれていて

大人でも容易に入れる大きさの土管など

付近の子どもたちには

恰好の遊び場だった

コンクリート業者の娘は

私より少し年上で

おねえさんの立場になってくれて

毎日のようにいっしょに遊んだ

 

おねえさんは

大きなコンクリート土管のなかに私を呼ぶと

雑草を水に浸けて緑のお茶を作り

貸してくれた着せ替え人形の口元に

瓶の蓋や

なにかの小さなカップを

小さな茶碗やコップに見立てて

飲ませるしぐさをする遊びに

私を引き込んだ

 

男の子だった私は

まだ小さいのに

そういうのは女の子の遊びだと

わかっていて

すっかり没頭したり

全身で参加したりはしないようにしていたが

それでも

実際には飲ませられもしない着せ替え人形に対して

こんなに熱中して

こんなに時間を使って

飲ませるふりを続けたり

私のことも

お客様として扱ったり

時には夫やお父さんとして扱ったりする

“女の子”なるものの異様さを

間近でずっと見続けた

 

男の子らしい遊び

求めようとしたわけでもなかったが

私は

長い棒を持ちながら

川岸のぬかるんだ泥のなかを

すこしでも乾いた

安定したところを選びながら

ぴょんぴょんと飛び歩き

よく見つかる

猫や犬の腐敗した死骸を棒の先で突っついて

あばら骨を開いたり

頭蓋骨を引っかけて川に投げ込んだり

まだ新しい死骸に湧き出している

たくさんのウジ虫を棒の先で引っ掻き回したりしながら

川辺のあれこれを観察し続けた

 

葦の群れ生えているところを

足元もろくに確かめずに

とにかくもぞもぞと入り込んでいき

草の先っぽを引っこ抜いて笛にしてみたり

葉っぱに付いている虫たちを見たり

動物の死骸をズック靴で踏んでしまったり

どんなところにも捨てられている瓶や缶や他のゴミを

いちいち見つめたり

触れる程度の汚れぐあいなら持ち上げてみたりして

川辺の王

のようになって過ごした

 

 

 




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