すこし寒くなってきたようだ
暖房をつけるほうがいいかもしれない
けれど暖衣があるから
しばらくはまだ
このままでもいい
手が悴むほどではないし
太い木づくりのこの小屋にいると
ひとりでも
なにもしていないようでも
たゞ居るだけで
充実していると感じる
人生ではなにをするかが大事だとか
どこを目指し
どこへ向かっていくべきかとか
価値のあるものとないものを峻別せよとか
たえず急ぐべきだとか
そんなことを言い募りやまぬ人たちに
取り囲まれていたことがあった
しかし
そんな人たちどうし
誰ひとり認めあっていなかったし
否定しあっていたし
いったい彼らはどこへ行ったのか
どこへ辿りついたのか
病に倒れたり
認知症になったり
亡くなってしまったら
もう誰も話題にもしなくなり
彼らの作り上げたものも
すぐに取り除かれたり破壊され始めてしまった
人生
どこを目指し
どこへ向かっていくべきか
なにに価値があって
価値のないものはなにか
そんなことは
たとえば入浴の際に
湯に浸かりながら
ボーッと思い見る程度のこと
そもそも
人生などと呼ぶべきほどの
しっかりした塊のようなものはなかったし
生に至っては
こちらの考えをはるかに超えた
神さまの
あるいは大宇宙の
不思議なイリュージョン
すこし寒くなってきたようだが
この寒ささえ
あゝ
なんという充実
暖房をつけるほうがいいかもしれないが
いい暖衣があるから
まだ
このままでもいい
手が悴むほどではないし
この寒さに
すこし体がギュッとなるのを
感じ続けていたい
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