2024年2月14日水曜日

うれしくおそれいってしまう


 

 

「ふん、長ズボンはかなくちゃ食えないような立派な料理なのかよ」

という

村上春樹のことば

 

以前サッと読んだ時は

もっと面白い言い方だったように思えたのだが

見直してみると

それほどではなかったな

 

  一度某出版社の招待で銀座一丁目の高級料理店「吉兆」で食事をすることがあって、このときもいつもどおりショートパンツに運動靴ででかけた。そうしたら入り口で女の人に、「申し訳ありませんが、半ズボンのお客様はご遠慮いただいております」と丁重に入店を断られた。「ふん、長ズボンはかなくちゃ食えないような立派な料理なのかよ」と啖呵を切ろうかとも思ったが、「そうです。その通りです」と言われたら、言い返せなくてそのままおそれいってしまいそうだったので、やめた。

             村上春樹・安西水丸 『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』

 

 

客のほうで長ズボンはかなくちゃ

ご立派に

かっこうがつかないような料理なのかよ

 

とでも

言っていたように読んだのだが

そうではなかった

 

吉兆の側が

「そうでございます。

お客様のほうで長ズボンをはいていただいて

儀式ばった空間づくりにご参加いただけませんと

どうにもこうにも

お食べいただけないような料理に過ぎないのでございまして…」

と答えてきたら

なんだか

よろこんで

長ズボンをはき直してきたくなるではないか?

うれしく

おそれいってしまうではないか?

 






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