2024年3月29日金曜日

大洪水のなかを

 


 

すべては宙を漂っているので

電波を受信するように

それらを掴めばいいだけのこと

 

なるべく

それらに近く言葉にしようとはするけれど

お札や貨幣なんかと同じように

言葉には

それを口にし

手にし

脳細胞間を通過させた

無数の人々の垢がこびり付いているので

はじめから

幾重にも

諦めに諦めてかかるしかない

 

むかし

泥の川で

遠い山奥から流れてきたらしい

汚泥にまみれた大きな葉を拾って

すごいねえ

大きいねえ

りっぱだねえ

でも泥んこでどうしようもないねえ

なんてしゃべりながら

葉柄を摘まんで

持ち上げてみたよねえ

蓮原幸太郎くん?

 

でも洗いもせずに

また川に投げ込んで

返り見もしなかったよねえ?

 

ぼくはときどき

あの大きなりっぱな葉っぱを

せめて

ちょっと水洗いして

なんの葉か

たしかめるぐらいは

してもよかったと思うんだよ

 

ひょっとしたら

特別な鳩が落っことしていった

未知の陸地の木の

だいじな葉っぱだったかもしれないんだから

 

ぼくらはいまでも

陸にたどり着けずに

大洪水のなかを

こんなに揺れ続けているんだから

 

 




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