2024年3月25日月曜日

まだ昼前の中世の暮れ方

 

 

 

指針を失った者たちが集まって桜を待っている

中世の暮れ方

お茶の淹れかただけは繊細になって

まだ昼前だというのに

昨今の若者の老人ぶりが鋭い

 

25歳になろうとするひとりの男性が希少鑑賞花ライメネアの栽培

ふいに志したのも

粉末状にした海龍の皮膚を混ぜた茶を喫する席

順番を待って直立している時に

(この海龍茶会では参加者は直立不動で順番を待つ)

左目の奥に光の球の出現を感じ

その光の中からライメネア栽培の温室が見えてきたという

 

はじめて華やかなビニールの晴れ着を来て茶会に来てみたメネは

三番目の会に参加するので

しばらく外の庭の大理石のベンチに座って待っていたが

庭木のあいだに静まる池から

たぶん10㎝ほどもないのではないか?

ごく短い宝剣が浮き上がってきて

浮いたまま池の上に停止するのに気づいた

 

メネは実業家の父に伴われて茶会に来たのだったが

宙に浮いた宝剣を見て

じつは自分こそが父であった!

しかも万物の!

と直観し

若い女性の外見がつかのまの蛹に過ぎないとわかって

羽化直前の流動状態に体内が入っていく

むず痒さと痛みと味わったこともない類の快楽に

くまぐまの細胞を震わされた

 

希少鑑賞花ライメネアの栽培を志す25歳になろうとするひとりの男性と

華やかなビニールの晴れ着を来て茶会に来てみたメネが

ごく間近に接近しながらも

出会いもしなければ

たがいを意識しあいもしない

まだ昼前の

中世の暮れ方のことであった

 





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