2024年3月28日木曜日

古本屋の霊

 

 

心霊スポットなどには行かないと

ユタのRINOさんが言っていたのは

もっともだと思われた

ユタは自分の調子を整えておくのが大事だから

調子を乱されるような場所には

わざわざ自分からは行かないというのだ

いくら霊能者といっても

いちいち浄霊したりしないといけなくなると

時間も労力も使う

不成仏霊などは無数にいるのだから

ふつうは避けて生きていくに限る

 

自分の調子を整えておくのを最重視する

RINOさんの姿勢に納得がいった

ほかのどんな仕事にも通じる姿勢だろう

いつ何どきでも一定以上の質で

仕事に取りかかれるように自己調整しておく

それを最上の義務と考える

霊能者というのもこうでなければならない

というのが非常に正しいと思えた

 

心霊スポットということで思うのは

意外に思われるかもしれないが

なんといっても古書店街こそがそれ

ということである

古い衣類には容易に霊がこびり付くが

古い本にも霊はこびり付く

そもそも古い本の著者たちは死んでおり

死者たちが書き残した文字群が古書なので

霊界への入口としては絶好のものである

まだ生きている著者たちのものはどうかというと

これはこれで生き霊への入口となる

文字群は最たる怨念の表象なので

著者によっては強烈な念が籠もっていたりする

 

本好きだった霊たちが

どうしても集まってきてしまうのも

古書店街の宿命だろう

霊たちは本を見に来た客たちにサッと憑依し

あれを買わせよう

これを買わせようと

ずいぶん頑張って刺激してくる

それは客たちの想念に入り込んでくるかたちをとるが

神保町のようなところにいると

客たちの身体にも影響を与えて

からだがないとできない体験へと動かす

空腹でもないのになぜか

カレーを食べたくなったりするのも

霊たちのつかのまの憑依による場合が多い

たいして散財するわけでもないので

どこかで一皿食べてやれば

霊たちは満足して抜けて行く

 

このあいだ

田村書店の1階の和書のほうでいろいろと本を見ていたら

急にひどい歯周病のにおいが流れてきた

近くにいるほかの客たちの口から臭って来たと思ったのだが

あとで考えてみれば

その時に近くにいたのは

みな若い客たちで

歯周病になる年齢とは思えなかった

 

ああ、そうか

歯周病に罹っていた霊が

たぶんあの時

田村書店の狭い通路を通っていったのだな

と後になって気づき直した

 

誰もまわりにいないのに

急に煙草のにおいが立ち込めたり

歯周病のにおいがしたり

体臭が臭ったり

かと思うと香水の香りが立ったり

ということは

古本屋ではけっこうあるのだ

 

霊だからといって

悪さをすると決まったわけでもない

悪い霊というのは

古書店街にはほとんどいないが

やたらと本を買わせようとしたり

カレーを食べさせようとしたりはする

 

この時

田村書店で

研究社の古い『詳解ラテン文法』も買ったが

ずいぶん勉強した跡があって

あやかりたい気持ちで買ったものだった

万年筆や赤鉛筆などで

的確に線が引かれたり囲まれていたりする

それでいてきれいなままの本なので

かつての持ち主はていねいに使ったものらしい

付録の語尾変化表などは

裏表紙の見返しに半分に切った封筒を貼りつけて

そこに入れてあった

かつてのこういう持ち主の霊ならば

こちらも受けとめてもいいと思われる

 





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