きのうの夜
まだ
あさい頃
千鳥が淵をずっと散歩してみたら
まだまだ
さくらは咲いていない
それで
いいと思う
春のさくらの開花には
冬の寒さをびっしりと経験することが要るそうだが
やっぱり
暖冬だったのだと思う
だから
四月が来るというのに
ビキッと開花するのに
まだ踏み切れないでいるんだ
あの連中
そう
家では
この冬に一度も暖房をつけなかったぐらいだから
やっぱり
暖冬だったんだ
たったの一度も
つけなかったんだぜ
千鳥が淵から出て
もう暗くなった靖国神社の境内へ
歩み行った
神門から奥はもう閉まっているので
大村益次郎銅像のあるひろい境内のあたりを
ふらふら
霊能者たちは
このあたりにもたくさん霊がいる
と
よく霊視している
そう言うと
こわがるひとたちもいるけれど
夜の靖国神社って
なんども歩いているのでわかるが
こわい霊はまったくいないし
めんどうな霊もいない
みんな
静かに佇んでいたい霊たちばっかりだと
実際に闇のなかを歩けば
よくわかる
この神社の気持ちよさは
そこから来ている
戦争で死んだひとたちの
ひたすら静かでいたい
静かな霊たちのあいだを
のんびり
歩きまわり
まだ
死んでいないかのような
ぼくが思い出すのは
こんな歌
紀友則が死んだ時に
悼んで歌った紀貫之の
こんな歌
明日知らぬわが身と思へど
暮れぬ間の
今日は
人こそ悲しかりけれ*
*古今和歌集、哀傷歌。
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