柳村こと上田敏は四十一歳で亡くなっている
その英語力についてはラフカディオ・ハーンに
「 英語を以て自己を表現する事のできる一万人中唯一人の日本人学生 」
と絶賛され
フランス語力については大翻訳家山内義雄に
「上田先生のフランス文学は独学ですけれども、
「アレは、だれかがいっていたが、
「何百年に一人という語学の天才じゃないですか」
と賛嘆され
もちろん世間一般には
訳詩集『海潮音』『牧羊神』の名訳で知られている
河井酔茗に頼まれて詩人森川葵村が
『海潮音』に入っているボードレールの詩「薄暮の曲」について
上田敏に解説を求めに行ったことがある
その際に上田は
「此の詩の形式は一見、 普通の四節に分れた十六行の詩としか見えぬが、実は仏文学にPantoumと称へる東洋の詩の形式を取ったも のである」
とも加えたらしい
明治時代にあって
ボードレールの詩について
こんなところまで解説できるということが
どういうことを意味するか
これはいくらかでも外国の詩歌を詳しく読もうとしたり
解釈しようとした者ならば
容易に理解できる
平成の現代にあって
訳詩や解説本のいくらでもある環境にいる者にも
詩歌という蕾を今の自分たちの目の前で香しく開花させるような
目配りのある解説を適確に加え得るかとなると
なかなかに難しい
学識の尋常ならぬ広さと深み
知と文学的感性のレベルの高さに
怖ろしくさえなる
上田敏である
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