ひとの世にいると
幸だの
不幸だの
不遇だの
そんな
いろいろな評言を作文するように
うっかり
言語脳は動きそうに
なってしまう
そんな時
動きを止められるひとは
さいわいだ
幸だの
不幸だの
不遇だの
そんな評言に
そもそも
まったく意味はない
えもいわれぬ
美しい一輪の花
それが
目の前にある瞬間が
得がたい愛を
相手から伝えられた時であることも
ある
人生のすべてを失って
拳銃の引き金を引く直前であることも
ある
高圧の電流の走る
収容所の鉄条網のむこうに
皮肉に咲き出でているのを見つけた時であることも
ある
都会での仕事に追われ続けたあげく
ひたすら海が見たい
海の水にたっぷり浸かりたい
と長らく思った末に
全身でどっぷりと浸かり込み
顔も頭も
波に潜らせてみる時の
海の水もあれば
泳ぎたくもない時に
服を脱ぐ暇さえ与えてくれずに
流されてきたたくさんの物といっしょに
濁った激流のなかに
こちらの体もこころも命も引き込んでいく
厳しすぎる水泳教師のような
海の水もある
そんな
厳しすぎる海の水も
オフェーリアにとってならば
甘美な救い
やさしき導き手
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