2018年4月30日月曜日

たいていのことは寺山修司さんなんかが

  

たいていのことは
寺山修司さんなんかが
とうの昔に
ズバッと言ってくれている

「すべてのインテリは東芝扇風機のプロペラのようだ。
「まわっているけど、前進はしない。

そうだろう?
この通りだろう?

「列車時刻表には、私の乗る予定のない列車名が並んでいる。

乗るにしたって
同時間にたった一本にしか乗れない
この
どうしようもない恐ろしさと
虚無感
選択だとかトレードオフだとか
そんな賢そうな経済用語を持ち出して来て誤魔化そうとしても
どうにもならない根源的な悲劇性が
列車を選ぶ
列車に乗る
そんな行為のひとつにもある

こんなことも
言ってたな

「オーダーメイドの洋服が商品として通用する時代だもの。
「オーダーメイドの思想が通用していけない訳はない。

ここのところは
寺山さん
間違ったんじゃないかと思う
レディーメイド
って
言いたかったんじゃないの?
あるいは
プレタポルテ
って

もっとも
もし
ほんとにオーダーメイドと言いたかったのならば
ふいに
深いところに引きずり込まれる

ぴったりとその人だけに合った思想
しかも
思想屋さんに注文を出した上で拵えてもらった思想
そういうことになるわけで
グッと
オリジナルになる

たぶん
レディーメイド
って
言いたかったんだろうけど

デュシャンあたりからの
流れで




だからさ もっと馬鹿にしようぜ、現代を

 
貧者を富者に隷属させるのは黄金の力ではない。
それは自分たちも富者になろうという貧者の望みなのだ。
この望みを持ちさえしなければ、彼らは必然的に主人になるであろう。

人民が夢中になっている欲求がすべて、
まさに人民を縛る鎖となっていることを権力者たちは十分に心得ている。
                                            ジャン=ジャック・ルソー『学問芸術論』


ちょっと時代が進めば
平成の終わり頃の十数年間は
臆病と傲岸と視野了見の狭さと度量の小っこさとが極まって行った
極端なちまちま時代であったと歴史は記して
永遠に馬鹿にされることになろう
大金持ちも中金持ちも小金持ちもこぞって
破壊と逸脱と超越を忘れ
ちゃちなグルメぶりとカルチャー通ぶりと
バーコードやQRコード付きの性風俗どっぷりに時空を蕩尽し
汝自身を知れ
とか
我は何を知っておるや?
とか
生きる上での道徳倫理の基礎の基礎などどこ吹く風
この国の編み出してきた技である
虚無に留まる風流さも
すっかり忘れてしまった自主的ヒューマンブロイラー時代であって
大物もなければ
特筆すべき人材もたったのひとりもなく
なにひとつ起こりさえしなかったと
数行で纏められて終わることになるだろう

だからさ
もっと馬鹿にしようぜ、現代を
時代を
この国を
この国民性を
もっと
もっと
もっと

おれたち
有史以来のほんとの大馬鹿で
どうしようもないレミングの群れで
これから
さらに愚行を重ねていくしかないところなんだから
ロングランどころか
永遠続演の決まっているニッポン喜劇なんだから

列島居住者が生き延びているうちの
話では
あるけれども



牛込橋のとダンフェール・ロシュロのと


飯田橋駅の西口には牛込橋があって
そこの上を通るのは早稲田通りで
ずっと真っすぐ行けば
神楽坂界隈を抜けて
やがては馬場下町や穴八幡へ
さらに行けば高田馬場駅へ到る

そんなことは
地図を見てもらえばわかる

ここにわざわざ記したいのは
いつも繁華な牛込橋の上で
そこそこ
ちゃんとした身なりのサラリーマンが
壁側に向いてではあるのじゃが
堂々と立ちションベンをしておった
というなのら
(いかん、文末が溶解してきてをる…)

夕方の頃あいじゃったが
もう日も長いからのぅ
歩いている人がちょっと横を見て
あ!
と気づけば
まァ
丸見えじゃテ

すぐ近くには交番

なかなかの
それなりの
ほんのちょっと小市民を超えた
勇気ある御仁で
ござるナ

そういえば
こないだ
パリでも見たぞ
堂々たるものじゃっタ
ダンフェール・ロシュロのメトロ駅の
出口の真ん前の
マロニエの木にむかって
白人中高年が
いたしておったゾ
憤慨の声を上げながら
数人が脇を通っていった
ズズズズズ
とか
ドドドドド
とか
そんな濁音カタカナを連続させたくなるような
音を立てて
豪勢に放尿しておられタ

なんだか
パリのエネルギーを感じさせられるような
爽快な勢いであっタ

牛込橋のほうは
音もなく
サイレント映画していタ

こんなわずかの事例で
日仏文化比較論をしようとは
思って
おらんヨ




天衣無縫

 
常磐線の夕“暮”れ列車に乗って
日“暮”里まで
さらにャ
上野まで
帰るところだったけんネぇ
東京へ
ネぇ

そしたら
ズボンをだらだら下げた
知恵遅れっぽい子が
列車の中を行ったり来たり

知恵遅れっぽい
といっても
もう二十歳くらいに見える子で
もう
子ではないなァ
“個”だなァ
苦労すんべェなァ

松戸サ
停まった時
ドアが開いたら
あンれ、マ、
ホームに向かって
おしっこサ
してんノ

点、点、点、点、…と
おしっこの
キラキラ
見えてんノ

んマぁ、天衣無縫

むかしは
こんな子も
こんなオヤジも
いっぱい居ったがノ
あっちこっちで
平気で
おしっこしちョるやつ
近頃は
とんとお目にかからんかったノ
なつかし
なつかし

ちょいと
楽しかったわいナ

天衣無縫
天衣無縫

こんくらいの
天衣無縫なら
許してつかわせ
天の神様がた



2018年4月28日土曜日

すべて除かれたのち、なおも

 

…しかし、しあわせであることが頂点ではない
頂点にあることが本当の頂点ではない

上のものは下になり、下のものは上になり*
太古からの霊性の原理が
いまさらめずらしくもない、あたり前の風景のように
脳の言語野を、今、また、ゆっくりと通過していく

学びや経験さえ、脳のむこうへ、ほとんどは浸透してはいかない
脳とともに灰に戻るものを、まだ、「私」と呼び続けたいか?…

流れ、変化、消滅も薄明も闇も含めて、
それを「私」と呼ぶようになっていくのならば、
まだしも、脳の灰になる時、損害は少ない…

名と過去を除かれても、なお、残るものを「私」とせよ、と
深い、しかし、軽い声がし続けている…
記憶も、思考力も、判断力も、感覚も、すべて除かれたのち、
なおも残るものだけを拠点とせよ、と声がする…




*C.f. A translation by Issac Newton of The Emerald Tablet, also known as the Smaragdine Table, or Tabula Smaragdina :
Tis true without lying, certain & most true.
That which is below is like that which is above & that which is above is like that which is below to do the miracles of one only thing
And as all things have been & arose from one by the mediation of one: so all things have their birth from this one thing by adaptation.
The Sun is its father, the moon its mother, the wind hath carried it in its belly, the earth is its nurse.
The father of all perfection in the whole world is here.
Its force or power is entire if it be converted into earth.
Separate thou the earth from the fire, the subtle from the gross sweetly with great industry.
It ascends from the earth to the heaven & again it descends to the earth & receives the force of things superior & inferior.
By this means you shall have the glory of the whole world
& thereby all obscurity shall fly from you.
Its force is above all force. For it vanquishes every subtle thing & penetrates every solid thing.
So was the world created.
From this are & do come admirable adaptations whereof the means (or process) is here in this. Hence I am called Hermes Trismegist, having the three parts of the philosophy of the whole world
That which I have said of the operation of the Sun is accomplished & ended.




野の花

 
「だれも、二人の主人に仕えることはできない。(…)
  あなたがたは、神と富とに仕えることはできない。」
          『マタイによる福音書』6・24


商品になりたがっている人たちがいつもうるさい
商品になるなんて
考えもしなかったものたちを
ひとつ残らず巻き込もうとして
あらゆるものにコードをつけようとして
うるさい

野の花を見よ*
言ってたな
だれか

コードもついていない
モンサントにも管理されてない
野の花
  



*『マタイによる福音書』6・24-34:
 〔その時、イエスは弟子たちに言われた。〕「だれも、二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。あなたがたは、神と富とに仕えることはできない。」
 「だから、言っておく。自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと、また自分の体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服よりも大切ではないか。空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない。だが、あなたがたの天の父は鳥を養ってくださる。あなたがたは、鳥よりも価値あるものではないか。あなたがたのうちだれが、思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。なぜ、衣服のことで思い悩むのか。野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか、信仰の薄い者たちよ。だから、『何を食べようか』『何を飲もうか』『何を着ようか』と言って、思い悩むな。それはみな、異邦人が切に求めているものだ。あなたがたの天の父は、これらのものがみなあなたがたに必要なことをご存じである。何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である。」



2018年4月27日金曜日

世界じゅうで読み手が


 
世界じゅうで
読み手が
ひとりぐらいしかいない
書きものや
メモが
まったくもって
無駄だ
とは

やはり
言えまい

無駄が
量的概念かどうか
といえば
やはり
そうではないだろうから

ならば
無駄ではない
やはり

世界じゅうで
読み手が
わたしひとりしかいない
わたしの
書きものや
わたしの
メモも



そう高価でない蜂蜜を使っていたら

  

そう高価でない蜂蜜を
使っていたら

もっと
質のいいのを食べなきゃだめ
もっと
高価なのを
って
言われた

そりゃあ
そうだろう

質のいいほうがよくて
そういうのは
もちろん
高価だろう

でも
そっちを買うようにしたら
こっちのは
どうするんだろう

そう高価でない
こっちのは

なんか
ちょっと

かわいそうかも




黒蝶


予期もしなかった
りっぱな黒蝶だ

公園をふちどりする
つつじや
さつきの
赤や朱色や白やピンクの
色のとりどりの
絶えぬ
むこうまでを

いっしょに
行ってくれるのか



あゝ、軽みだけはたしかに



なんと軽んじられているか
とは
よく知っている

なんの目的も持たず
方針も主義も
そのほか
持ったらいいと思われがちな
なにひとつ
持たなかったから
かな?

あゝ、
軽みだけは
たしかに
わがものにしようと
目指した

つまりは
達成
ということ
かな?



道のしあわせ



陽射しのつよい頃
ながく
ながく歩いていかねばならない
道の
しあわせ

満開のつつじが
あまりにも
つよい
つよい香りで

しあわせ



だったかのような

  
     Ⅰ

細い身体には大き過ぎるような黒いリュック
背負って
昼前
眼鏡をかけている
おばあさん

おばあさん
と呼んでも怒られないような
白髪
短髪
どう見ても70はとうに超えて
80代も後半か
でもブルージーンズにデニムのブルージャケット
なにかのケースか
包まれた大きな長方形の荷物も

バスに
乗る時も足がスムーズに上がらない
後ろにいた若者が
おばあさんを押してやろうとしたほど

降車時に椅子から立つ時も
なかなか
立ち上がれない

バスから降りる時は
よろよろとだが
なんとか降りられた



     Ⅱ

飯田橋駅JRホーム
夕方
混雑時
サラリーマンの多いところで
乗る客と降りる客の混じりあいで慌ただしい

着いた電車に乗ろうとして
エスカレーターから上がって来た客が
降りてきた客の流れに抗して
電車に駆け入ろうとする

そんな人波に押され
仰向けに倒れた
おじいさん

おじいさん
と呼んでも怒られないような
80代後半と見える
痩せた
白髪
短髪
眼鏡をかけ
杖をついている
おじいさん
おじいさん

ケガはなかったらしい
ひっくり返った甲虫のように
少し背を曲げて
微笑んでいる
じぶんでは
なかなか起き上がれない

まわりにいた人たちが
手を差し伸べる



     Ⅲ


昼前の
おばあさん
夕方の
おじいさん

一日のうちに
見た
ふたり

白髪
短髪
眼鏡
足腰の
よろよろ

ほとんど
同じ人
だったかのような

だったような



     Ⅳ

だったような

ことは
あるまいが

だったかのような



2018年4月23日月曜日

ミナコちゃんがそう言うので

                                                                                     
永遠に生きることを願う者が心すべき重要なことは、
何ごとも真剣に受け取るな、ということである。
だからといって、軽薄な言動はもっと致命的である。
…では、どうすればいいか?
ウィリアム・S・バロウズ『ウエスタン・ランド』


日本ではどんどん税金が上がるし
社会保障も縮小される一方だし
それにくらべたら
フランスは大学だってタダだっていうし
社会保障は充実しているし
だいたい洒落ているし

ミナコちゃんがそう言うので
「それはアフリカってものがあるからさ
と言ってやると
どういうこと?
って聞いてくるから
かいつまんで
ほんのちょっと話してやったのでした

フランスは
植民地にしていたアフリカフラン(CFA主要国と協定を結んでいてね
その協定を結べば独立するのを認めたんだ
アフリカCFA諸国14カ国の外貨準備金の85%は
自動的に共同準備金としてフランス銀行に預けなければいけない
という協定
14カ国の国民が稼いだお金の85%は自動的に
フランスに取られてしまうという協定

預けているのだから
必要になった時には引き出せばいいように見えるけれど
預けているお金のうち使えるのは15%だけ
と決められてしまっている

それ以上使うと
フランス銀行からの借入になってしまって
利子を払わなければならないし
返さねばならなくなる

しかも借入の上限額は
借り主の収入の20%までという制限がつけられてしまっている
それ以上の借入に対しては
フランス政府は拒否権を発動することができるしくみ

そりゃあ
儲かるよね、フランス
フランスとアフリカの特別な関係
と呼ばれるこのしくみで
経済的に徹底的に搾取を続けているんだから

ヨーロッパとアメリカを
表向きだけで見て
うわぁ、きれい、とか
社会福祉が進んでいてすごい、とか
そんなことで済ましていてはいけない

ミナコちゃんだって
お家がむかし
植民地のひとつやふたつを持つグループに属していたら
こんなところにいて
ニッポン語なんて
使っていなかったはずなんだよ、たぶん

自給いくらとか
何時には職場に着いてなきゃとか
そんな気苦労には縁もない
毎日の流れに
するするするするっと
乗っていたはずなんだよ、たぶん