現実が一つ崩れたあとも、
すぐ別の現実が結晶しはじめて、新たな秩序を作り出す
という観念に、
いつのまにか馴れはじめている自分に気づいた。
三島由紀夫『奔馬』
教員になったばかりの若者がゲームのことを言う
生徒たちがゲームばかりしていると言う
勉強よりゲームを面白がる生徒たちにどう対処しようかと悩むと言
電車に乗れば大の大人たちもゲームばかりやっていると言う
自分はいままでゲームをやらないように自戒してきたと言う
やってみたらどうなるのだろうと思ってしまうと言う
ともかくも生徒たち相手にはどう言ったらいいか悩んでしまうと言
ぼくの結論は明快
ゲームやったっていいんじゃないの？
ただし、“ながら”ゲームなんかしないで数時間集中してやる
そうするとある時点でたぶん何らかの満足に達する
続けてやっていると疲れるし
そこでやめたらいいよね
気晴らしに教科書でも開いたらヨロシ
ゲームで意識が麻痺してダメ人間になってもヨロシ
だって人間はいっぱい居過ぎる
人口減少なんて言ったって人間はとんでもなく多過ぎる
だいたい人口減少の責任は政府と官庁にだけある
国の責任なんて勝手に買って出るんじゃないぜ
だめな国は滅びる、これ歴史の宿命
しかし個々人はゴキブリのように生き残り続ける
個々人は国でも文明でもない可塑的な妖怪なのだからね
人間はなにかに集中する時にだけ忍耐力も創造力も開発される
なにかに集中する時にだけ寿命も伸びるホルモンも出る（と思う）
だから他の対象が見つからないうちはゲームをやるのだっていい
ゲームをやりながら将来他のことにも使えるパワーのベースを養っ
そういう理屈づけでいいんじゃないかと思うね
ゲームしたい人はなにかに深く集中したいのだろうと思う
仕事に集中しろって言われたって面白くないしね、仕事なんて
社会の中で仕事が面白いのは他人を駒として使えるトップだけだ
トップの脳だけにエンドルフィンを出させる体制になんか
トップ以外の人間は奉仕していてはいけない
怠惰やいい加減さや至るところの弛みを繰り出して体制を溶解すべ
よくしたもので社会がひとつ壊れてもすぐに次のものができてくる
戦後のドサクサやメチャクチャをいくらでもくり返せばいい
羅生門の物語の時代や文明の衰亡期にも人類は絶えたことが
蘇我も滅び平家も滅び源氏も滅び足利も滅び豊臣も滅び徳川も滅
ところが人間なんていう生物はどんな時でもなんとかなっていく
つい昨日までの幸福概念や誇りを棄てればどうにでもなっていく
トップじゃない人間がトップを駒として逆使用できるのは
ゲームの規則そのものを根底から蝕むことによってだけ
トップがやりがいを失くすゲームを設定し直す時に
トップでなかった者たちの楽しい時代が来る
天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと諭吉さんも言ったが
従わねばならない他人というものは人界では存在してはならないから
昨日の王様はかならず今日は斬首されなければならない
今日から君が王様でもいいんだよ
明日嬲り殺しや首チョンパされる覚悟さえできていればね
それが人間社会の健康なあり方でこれは厳しく守らねば
民主主義が数十年続いたら別の政治体制にひっくり返さないといけ
全体主義なんてどうせ数十年も続かないから別の体制にひっくり返
君主制なんてすぐに腐る完熟の水蜜桃みたいなもの
そんなことはギリシアやローマの政治史をふり返れば一目了然
文明が頂点に達したらかならず御破算にしてゼロからやり直す定め
人間は自由なものとして生まれ…至るところで飲み始めた、
…じゃなくってルソーをパロった芸人コリューシュも言っていた
どうせ数千年も経てばまたロケットで宇宙に行く程度には進歩す
で進歩したらまた御破算にするんだ
出口なおでも王仁三郎でもないから予言もなにもしないけれども
この御破算のすさまじく巨大なのが来年から本はじまりする
ちょっと敏感な人にはもうジリジリ感じられているはず
あれやこれやがこんなに連続して起こるはずはないのにといったこ
もうずんずんと続いて目の前に現われてきているのは
前兆として心の準備をして置くようにというカミの御心の現われ…
…おっと
文明の御破算の話をしようと思ったのではなかった
ゲームのこと
集中のこと
なにかに集中する時にだけ忍耐力も創造力も開発されるということ
そんなことをおしゃべりしようとしたのだった
ゲームであれ他のどんなやり方であれ
誰もが少しでも多く精神のパワーを養っておくべき今だ
ほんの少しでも
ちょびっとでも多く
わずかなパワーの違いで
津波を避ける直観力に差が生まれる
地割れができた時の飛び退きの瞬発力に差が生まれる
大噴火とともにすさまじい速さで下ってくる溶岩流や土石流に
どう対処すればいいのか閃く速度と強度と質が違ってくる
もちろん
生きるも死ぬも
文明の終焉に居合わせるのも
どれもこれも
ゲーム
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