Ⅰ
細い身体には大き過ぎるような黒いリュック
背負って
昼前
眼鏡をかけている
おばあさん
おばあさん
と呼んでも怒られないような
白髪
短髪
どう見ても70はとうに超えて
80代も後半か
でもブルージーンズにデニムのブルージャケット
なにかのケースか
包まれた大きな長方形の荷物も
バスに
乗る時も足がスムーズに上がらない
後ろにいた若者が
おばあさんを押してやろうとしたほど
降車時に椅子から立つ時も
なかなか
立ち上がれない
バスから降りる時は
よろよろとだが
なんとか降りられた
Ⅱ
飯田橋駅JRホーム
夕方
混雑時
サラリーマンの多いところで
乗る客と降りる客の混じりあいで慌ただしい
着いた電車に乗ろうとして
エスカレーターから上がって来た客が
降りてきた客の流れに抗して
電車に駆け入ろうとする
そんな人波に押され
仰向けに倒れた
おじいさん
おじいさん
と呼んでも怒られないような
80代後半と見える
痩せた
白髪
短髪
眼鏡をかけ
杖をついている
おじいさん
おじいさん
ケガはなかったらしい
ひっくり返った甲虫のように
少し背を曲げて
微笑んでいる
じぶんでは
なかなか起き上がれない
まわりにいた人たちが
手を差し伸べる
Ⅲ
昼前の
おばあさん
夕方の
おじいさん
一日のうちに
見た
ふたり
白髪
短髪
眼鏡
足腰の
よろよろ
ほとんど
同じ人
だったかのような
だったような
Ⅳ
だったような
ことは
あるまいが
だったかのような
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