2022年5月18日水曜日

変われば変わるもの

 

 

 

女を愛しているわけではないのだ。

吉行淳之介 『曲がった背中』

 



 

SNSを見ていたら

イングリッド・バーグマンの写真が流れてきて

そんなにきれいじゃないな

と思った

 

高校生の頃は

いちばんのあこがれの女優で

いつかこんな人に出会えたらいいな

と思って暮らした

 

もちろん

そこそこきれいではある

やっぱりきれいではある

きれいではあるが

二十代から

さんざんヨーロッパに行くようになってみると

あのくらいの美人はいくらでもいて

バーグマンの場合

あくまで撮りようできれいにしていたのが

よくわかるようになった

 

よさそうな人ではあるし

あんな人を妻にしたら夫は幸せだろう

ロッセリーニが鼻の下を伸ばしただろうことは

よくわかる

 

バーグマンが歳をとってからの

ベルイマン監督の『秋のソナタ』では

歳寄りぶりにがっかりした

『オリエント急行殺人事件』の彼女にも

がっかりした

 

もちろんどちらの映画でも

バーグマンは名演し

優れた女優であることを示した

 

しかし『カサブランカ』や『凱旋門』や

『ガス燈』や『汚名』以外の顔は

わたしは見たくなかった

バーグマンほどの美人でも

けっきょく『秋のソナタ』のように

なってしまうのなら

若い男が美人に一生を賭けるのなど

なんと愚かだろうと

たぶん

悟ってしまった

そうそうに

 

多量に映画を見続ける人生となったので

ときどき

バーグマンは目に入り続けるが

惹かれない

いまでは

もう

まったく

 

それはそれでいいのだと

思う

ひとりの男子の

感情教育の

果て

果てまで来たのだ

たぶん

 

他方

おもしろいと思うのは

田中絹代や

山田五十鈴や

八雲恵美子などは

画面の上で見つめ入ってしまうようになって

変われば変わるものだと

驚いている

 

芦川いづみも

時代が経つほどに

よく見えてきた

この前見た

熊井啓の『日本列島』では

意外な出方をしていて

名演だった

 

 





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