2022年5月22日日曜日

意識しなくても生きているのだから


 

 

過去の記憶からなにか

引き出しては

しゃべってみたり

玩味してみたり

ばかり

では

さびしい

する

 

過去をまったく語らないよう

努めれば

ようするに

ただの機械でしかない

だれかが得をするだけのために回転しつづける

虚栄の市の機械

 

わたしは空を見る

空の遠くのほうを見る

空の近いところを見る

 

風に吹かれる

風に撫でられつづける

 

音が聞こえ

鳥の声が聞こえる

 

生きているのはどうでもいいと思う

生きている

のは

言葉ならべした

ただの表現に過ぎないから

 

なにかというと

「生きている」と結んで

なにかキメた気になる詩歌芸術のたぐいを

見せられつづけてきた

昭和や平成の時代に

 

生きている

なんて

言ったり書いたりする必要はないのに

いつも思った

言ったり書いたりしなくても

生きている

のだから

 

生きている

などと

意識しなくても

生きている

のだから

 

わたしの上の何代もの世代はくだらない

感情的過ぎ

思考力も型に嵌まりすぎていて

ろくな世代ではなかった

 

優秀な人たちは戦争で死んだのだろう

と思った

 

意識は実存の死だ

と書いたのは

レヴィナスだったか

 

音が聞こえる

自動車が調子に乗って飛ばしていく音だが

そんな音にも

わたしはエネルギーをもらう

 

自作の古い短歌に

「東京生活貫徹すべし」

と書いてあった

 

ふん

やるじゃないか

二十七年前のわたしよ

 

オレンジの長きアームを美と呼ばむ東京生活貫徹すべし

歌集『百十八』(1995

 





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