数年前から
家でワイシャツを着るようになっている
アンダーシャツを着ずに
じかに肌に着る
夏場でも
冬場でも
これが気持ちがいい
綿の割合が多いのがいちばんいいが
化学繊維のものでも悪くない
冬場などじかに肌に着ると
ワイシャツだけのほうがじつは温かい
子どもの頃から
アンダーシャツを着てから
ワイシャツは着るものと育てられてきた
しかしヨーロッパの文化を学ぶようになってから
ヨーロッパの男たちは
じかにワイシャツを着るのを見た
あれは日本のように蒸し暑くないところでの着方
そう思って納得しようとしてきた
青年時代から中年にかけては
夏場はフランスで過ごすことが多くなった
フランスの男たちでも
暑い地方ではワイシャツの下にアンダーシャツを着る
汗をかくのでワイシャツと肌の間に
一枚挟んでおくほうが好都合だ
しかし涼しい地方や
晩秋や冬などはそのままワイシャツを着る人が多い
そんな着方を見ているうち
ワイシャツとはなにかと自分なりに考えた
なんといってもワイシャツは下着で
同時に表側はそのまま人目にさらせる衣服でもある
裏は下着で表は他人に見えてもよい衣服
ワイシャツというのはそんな不思議なもの
半分は下着なので
ワイシャツのちゃんとした着方は
やはり上着あってのものということになる
アンダーシャツを着ずに
数年前から
家で
じかに肌にワイシャツを着るようになったのは
ヨーロッパではそうするとか
本来のワイシャツ文化はどうだとか
そんな小難しい気取りのためではなく
外出着として買い集めたワイシャツがいっぱいあって
背広とあわせて着るにはくたびれたものがあって
しかし捨てるにはまだまだ惜しいものがあって
そうしてじかに着てみたら気持ちがよくって
という流れだった
暑ければ胸をはだけていればいいし
酷暑の日に汗をかくなら他のシャツに次々取り替えればいいし
寒ければ上になにか羽織ればいいし
近くへ買い物に出る程度ならジャケットを羽織ればいいし
こんなに便利な衣類はめったにない
とあらためて見直した
ほんとうに
歳月が経っても丈夫なままの生地のワイシャツもあって
古いものなのにまだまだ捨てられないものがある
むかし下北沢ちかくに住んでいた頃
J.Crewの店舗ができたことがあって
仕事がえりによく立ち寄り
ネクタイやワイシャツをよく買った
ブルーのワイシャツを好んでいた頃で
いい色柄のブルーのワイシャツを何枚も買ったが
時には気分を変えて他の柄や色のシャツも買った
当時のJ.Crewのシャツは生地がよくて
アイロンをかけるときれいに皺ひとつなく仕上がった
いっしょだったエレーヌといっしょに寄ると
こちらのほうが似合うとか
たまにはこういうのもいいとか
いろいろ見つけてきてプレゼントしてくれた
いまさらながらに
いい生地のワイシャツには驚かされる
三〇年以上経つのに
エレーヌももう死んだのに
もう下北沢にはまったく行かないのに
いま住んでいる家のなかで着たり
近くに歩きに出るのに着る程度なら
J.Crewの三〇年前のワイシャツは
まだまだじゅうぶんに着られるのだ
まだ何枚もある
ネクタイにしても
あの頃と同じように使えるまま
何十本も
まだ保存している
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