2022年5月27日金曜日

まだまだじゅうぶんに着られる

 

 

数年前から

家でワイシャツを着るようになっている

アンダーシャツを着ずに

じかに肌に着る

夏場でも

冬場でも

これが気持ちがいい

綿の割合が多いのがいちばんいいが

化学繊維のものでも悪くない

冬場などじかに肌に着ると

ワイシャツだけのほうがじつは温かい

 

子どもの頃から

アンダーシャツを着てから

ワイシャツは着るものと育てられてきた

しかしヨーロッパの文化を学ぶようになってから

ヨーロッパの男たちは

じかにワイシャツを着るのを見た

あれは日本のように蒸し暑くないところでの着方

そう思って納得しようとしてきた

 

青年時代から中年にかけては

夏場はフランスで過ごすことが多くなった

フランスの男たちでも

暑い地方ではワイシャツの下にアンダーシャツを着る

汗をかくのでワイシャツと肌の間に

一枚挟んでおくほうが好都合だ

 

しかし涼しい地方や

晩秋や冬などはそのままワイシャツを着る人が多い

そんな着方を見ているうち

ワイシャツとはなにかと自分なりに考えた

なんといってもワイシャツは下着で

同時に表側はそのまま人目にさらせる衣服でもある

裏は下着で表は他人に見えてもよい衣服

ワイシャツというのはそんな不思議なもの

半分は下着なので

ワイシャツのちゃんとした着方は

やはり上着あってのものということになる

 

アンダーシャツを着ずに

数年前から

家で

じかに肌にワイシャツを着るようになったのは

ヨーロッパではそうするとか

本来のワイシャツ文化はどうだとか

そんな小難しい気取りのためではなく

外出着として買い集めたワイシャツがいっぱいあって

背広とあわせて着るにはくたびれたものがあって

しかし捨てるにはまだまだ惜しいものがあって

そうしてじかに着てみたら気持ちがよくって

という流れだった

 

暑ければ胸をはだけていればいいし

酷暑の日に汗をかくなら他のシャツに次々取り替えればいいし

寒ければ上になにか羽織ればいいし

近くへ買い物に出る程度ならジャケットを羽織ればいいし

こんなに便利な衣類はめったにない

とあらためて見直した

 

ほんとうに

歳月が経っても丈夫なままの生地のワイシャツもあって

古いものなのにまだまだ捨てられないものがある

むかし下北沢ちかくに住んでいた頃

J.Crewの店舗ができたことがあって

仕事がえりによく立ち寄り

ネクタイやワイシャツをよく買った

ブルーのワイシャツを好んでいた頃で

いい色柄のブルーのワイシャツを何枚も買ったが

時には気分を変えて他の柄や色のシャツも買った

当時のJ.Crewのシャツは生地がよくて

アイロンをかけるときれいに皺ひとつなく仕上がった

いっしょだったエレーヌといっしょに寄ると

こちらのほうが似合うとか

たまにはこういうのもいいとか

いろいろ見つけてきてプレゼントしてくれた

 

いまさらながらに

いい生地のワイシャツには驚かされる

三〇年以上経つのに

エレーヌももう死んだのに

もう下北沢にはまったく行かないのに

いま住んでいる家のなかで着たり

近くに歩きに出るのに着る程度なら

J.Crewの三〇年前のワイシャツは

まだまだじゅうぶんに着られるのだ

まだ何枚もある

ネクタイにしても

あの頃と同じように使えるまま

何十本も

まだ保存している

 





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