……そして
ときどき
時雨が降るのです
薄雲のように見えるものの
空全体が
ずうっと覆われておりますでしょ?
なので
もう午後も遅くなると
ずいぶん
暗いのです
黄泉の国は
黄昏時のような暗さだと
言われることもございますでしょ?
あのように暗いのです
わたしひとり
現実とはちがう世界に陥ってしまって
ひとは
もう
みんな死に絶えてしまって
(それとも
わたしのほうが死んでしまっていて
この意識は
霊となったわたしの意識なのかしらと
思ったりもして…)
どこの部屋にいても
廊下を歩いていて
窓ガラスから
庭とか
戸外の家の近くだとかを
覗いてみていても
バラバラとか
ザアッと
とか
音立てて
時雨が降るのです
たくさん降ってきて
ああ
たいへんだ
などと思うと
また
止んだりするのです
しばらくすると
また
バラバラとか
ザアッと
とか
音立てて
時雨
そうして
あなたのことを
思ったりしております
死んでいるのかも
しれません
わたし
あはれにも
たえず音する時雨かな
とふべき人も
とはぬ住みかに*
藤原兼房
木の葉散る
宿は聞き分くことぞなき
時雨する夜も
時雨せぬ夜も*
源頼実
*ともに『後拾遺和歌集』第六・冬
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