平野さんの家では
だれもいない部屋や
だれもいない二階から
ひとの歩く音がしたり
生活音がしたりする
なぜか
しばらく
音がしなくなっていたそうだが
この頃
また聞こえるように
なってきました
と平野さんは言った
おばあちゃんの家のまわりなども
以前はけっこう出たそうだ
お母さんが小さい時
もちろん
今のおばあちゃんの家に住んでいたが
夜になると家の外を
ザッザッザッと音を立てて
たくさんのひとが歩いて行く
外に出て見てみると
戦国時代あたりの
雑兵のような足かっこうをした
たくさんの兵が歩いて行く
お母さんにもおばあちゃんにも
あたりまえのように
そんな光景が見えたという
霊道と呼ばれるものだろうが
今ではそのあたりも開発されて
建て売り住宅がいくつかできて
ひとも住むようになっている
だから見えなくなってしまっています
と平野さんは言う
でも霊道っていうのは
表面的に新しく家ができたぐらいでは
そう簡単には変更されないんじゃないの?
ひょっとしたら
できた住宅のなかを
夜になると兵たちは歩いて行くのかもね
そう言ったところで
ある学生から聞いた話を思い出した
子供の頃に家族で八王子に住んでいて
彼が経験した話なのだが
子供部屋で夜に寝ていると
足元のところを
ザッザッザッと音を立てて
たくさんの兵隊を歩いて行くのだそうだ
大平洋戦争中のような兵隊の姿で
列を作って後から後から歩いて行く
ほんとうにすぐ足元なので
足が踏まれないか心配になったという
毎晩ではなかったものの
けっこうな頻度で夜にくり返され
だんだんと慣れてしまって
また始まったなあと思ううちに
うとうとして眠ってしまうのだという
こんな話もあるのだから
平野さんのおばあちゃんのところも
霊道はまだ残っていたりして
できた住宅のなかの子供部屋なんかを
雑兵たちが夜な夜な
ザッザッザッと音を立てて
歩いて行っているかもしれないね
と話すと
それはあるかもしれません
と
周囲にお化け話の絶えない平野さんは
うなずく
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