2022年6月30日木曜日

ぼくが子どもの頃はクーラーなんてなかった

 

 

朝っぱらから

熱中症に注意せよ

と天気予報や行政の寸言がスマホに来る

トーキョーは今日

36度に達するそうで

ほかの地方は40度越えもあるかも

だそうだが

たいしたことないじゃん

と古い人間のぼくなどは思っちゃう

 

なんと言ったって

夏は

昔のほうが暑かったのだ

 

そう言うと

気温の記録を出してきて

昔の夏はせいぜい30度ぐらいだったから

今より穏やかだった

と反論してくる奴がいっぱいいる

 

違うね

 

ぼくが子どもの頃は

クーラーなんてなかったんだ

涼むのには

団扇と扇子と扇風機しかなかったんだ

それらだけで30度をやり過ごすんだ

最高は32度ぐらいだったような記憶があるな

クーラーなんてまったくなしの

毎日毎日のことなんだ

やれるもんならやってみろってんだ

ヤワな今どきの連中には絶対にできまい

ぼくらはやってきたんだ

あの頃の老若男女みんなやってきたんだ

 

中学生になると

クーラーが家庭にも普及してきた

家にクーラーがあるっていったって

電気も喰うし

下のタンクに溜まる水を時々捨てないと

畳やカーペットが濡れちゃう

家族揃っての夕食の時しか点けてくれず

夏休みで家にいるからといっても

いちばん暑い日中なんて使わせてもらえなかった

シャツを胸までまくり上げて

団扇であおぎ続けなんだ

ちょっとクーラーを味わいたいなあと思うと

郵便局の本局まで出かけていって

脇のほうにあるでっかいクーラーの前に立って

シャツを持ち上げて冷風を浴びたりする

そうしたって帰りには熱気のなかを歩いていくわけで

ぜんぜん意味ないんだけれども

 

高校生の時も大学生の時も

学校にクーラーなんて入っていないし

だいたい国電も地下鉄もクーラーなんてなしだ

毎日の満員電車のなかの凄まじさを

ぜひとも今のヤワな日本人に体験させたくってウズウズする

前後左右びっちり体がくっつき合って

誰も彼もが汗みどろだから

お互いに汗を塗りつけ合うのが夏の満員電車だ

かわいい女子学生と腕や肩の汗を擦りつけあうのはまだいいとして

太ったおじさんやなんだか汚らしいむくつけきオヤジと

互いの汗を塗りたくり合うのは人類愛の試練そのものだった

大学のどの教室にもクーラーなんて入っていないんだから

ノートもテキストも辞書も手のひらや腕の汗にペチャペチャくっつ

居眠りして辞書の上にほっぺたをつけたりしたら

もう見事な吸い取り紙になってしまって

しばらく実用にならない

図書館にはクーラーの入っている部屋もあったが

全室に入っているわけではなかったので

カントだのヘーゲルだのハイデガーだの読んでいると

もう頭は沸騰してきて物狂おしけれ!だった

ガルシア・マルケスに凝った時なんか大変で

『百年の孤独』を読んでいくうちに頭のなかも

周囲も作品舞台のコロンビアのマコンドそのものになっちゃって

あの似たような名前の登場人物たちの誰が誰だったか

もうすっかりわからなくなっていってしまう

『カラマーゾフの兄弟』を読んだ時もきつかったが

外国語の動詞活用をたくさん暗記したりするのも

危険な麻薬をやっている感じの頭になっていく

 

そんな頃には

夏っていえばスイカなんぞ

やっぱり本当に旨かった

スイカの値段は今とくらべてどうだったんだろう?

ひと球ずつ買ってきてお風呂に水溜めて投げ込んでおいたが

たしか高くてもひと球300円ぐらいだったように思う

高かったという記憶がないし

それに切り分けて売ってなどいなかった

ひと球じゃ多すぎるわァというおばさんがふたり揃ったりすると

八百屋のおじさんが半分に切ってくれて

ふたりの客にわけて売ってくれたりしたぐらいだ

 

親から頼まれて買いに行く時は

ぼくはもちろんまるごとスイカを買ってきたもので

それはそれなりに重いからめんどくさかったが

それでもこれで二三日は食べられるわいと思って

頑張ってカンカン照りの道を歩いて帰ったものだった







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