2018年2月15日木曜日

たっぷり敬意を込めさせていただいて

自由詩花ざかりの20世紀に
定型詩ばかり書いたイギリス桂冠詩人
ジョン・ベトゥシャマン*ときたら
たいへんなサイダー飲みだったらしい
ま オックスフォードの学生時代の
ことではあるが

ぼくらは何ガロンもサイダーを飲んでさ
ぼくときたらおそろしく酔っちまってさ
でみんなしてなにもかもぶっこわしてさ
そのなかでもいちばん愉快だったのはさ
くそったれの古い絵ぶっこわしたことさ
かけがえない美術品とかいうんだけどさ**

サイダーといっても
もちろん林檎酒のことで
何ガロンも飲めばそりゃあ酔って
くそったれの美術品なんぞ
もちろん壊したくなるわけだ

旧約聖書の民数記では
葡萄酒と濃酒を禁酒しろと神が告げているが
この濃酒がサイダーの大元らしく
ヘブライ語でシャイカールというらしい
葡萄酒より度数が高かったから濃酒なのか
味が濃かったから濃酒なのか
それはわからないが
フランス語のシードルを経て
英語のサイダーに行きつくまでには
ずいぶんと薄まったはずだろうに
何ガロンも飲んでは
くそったれでかけがえのない
美術品なんぞをぶっ壊す連中が
まだオックスフォードには居たりした

ぼくは鶏姦… おっと、違った
桂冠詩人じゃないので
ここじゃ自由詩で語らせてもらったが
いかにもイギリス精神満載の
ひねくれベトゥシャマンさんの詩は
たっぷり敬意を込めさせていただいて
ちゃんと脚韻を踏んで訳しておいたぞい

さらにちょっとつけ加えるが
Betjemanと綴って英語ではベトゥシャマンとか
ベッシャマンとかに近い音で発音するのらしいこの人の名を
ベッジェマンとかベッジャマンとか呼んでみると
新しめのイングリッシュローズの一品種
サー・ジョン・ベッジャマンに繋がっていく
薔薇に名を付けられるだけの一時代を画した文人とわかるが
この薔薇の芳香はさほどでもないようなので
薔薇園芸好きのぼくでも今後育てることはないかもしれない

ついでにもうひとつつけ加えるが
ロマン・ガリの名作小説『Lady.L』***で
レイディ・Lに終始おちょくられ続けるイギリスの桂冠詩人は
どうもこのジョン・ベトゥシャマンをモデルにしている気がする
もっともベトゥシャマン本人は煮ても焼いても喰えない系の
堂々たるイギリス皮肉系詩人で文人だったのに比べ
ガリが描き出したのは心優しい品行方正な老いた桂冠詩人で
そこのところはずいぶん違う感じがある
Lady.L』には日本語訳はないので
興味をお持ちの向きはまァ基礎フランス語から頑張ってくださいな
ロシア人でポーランドを経てフランスに帰化した
第二次大戦時の航空兵にしてド・ゴール派でもあった異才
ロマン・ガリについて話し出すと
またまた長話になり兼ねないからこのあたりでとりあえずの幕



**ジョン・ベッシャマン『大学生の乱痴気騒ぎ』
***Romain Gary, Lady.L




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