2018年2月15日木曜日

ひとつやふたつ



涼しさや愛されるのも一仕事

丸谷才一の句
最後の句集『八十八句』にある

ワンクッションも
ツークッションも仕掛けたフィクションの韜晦なしに
みだりに
自分のことなど詠む
丸谷ではない

「掛川、吉行淳之介文学館にて」と
詞書にあるのを見れば
むしろ
吉行に仮託しての句
と見たほうがいい

句集の題名からして
高浜虚子の一連の
ぶっきらぼうな句集タイトルへのリスペクトだと
すぐにわかる

すぐにわからない向きは
まぁ
最初から相手にされていない
それが文芸

パイプカットして
女性たちを抱くのに専心した吉行さんにして
70歳で亡くなったか
ヘンな思いに浸る
(もちろん
(力点はパイプカット云々にはない

人の寿命
宿命
そんなことの
あれこれ
それを思う時間に
しばらく
浸る
そんなとこ

入籍を迫られると
吉行さんは逃げたくなったそうだ
死ぬより怖い…
他人からみるとなんでもないようでも
そんなものが
誰にも
ひとつふたつ
あるのかもしれない



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