ミサの時間ではない。
教会の小さいほうの扉が少し開いている。
中でミサ曲の練習が続いている。
それが漏れ聞こえてくる。
Quaerens me, sedisti lassus :
Redemisti Crucem passus :
Tantus labor non sit cassus.
「思い出してください、慈しみ深いイエス様」の
「Recordare, Jesu pie」の二連目。
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
「十字架の刑を堪え忍ばれたのでした。
「どうか、あれほどの労苦が無に帰してしまいませんように。
午後も、遅くなりかけようという、
曖昧な頃あい。
今日、
ここでは、私は、旅人。
教会の前の、
階段に、腰を下して、
地図を見て、
この先の、方途を、
考えている。
…考えている、のか、
待っている、
のか、…
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
あらためて、
ここが、大事なところ、か、
と思う。
「捜し求め」ているのは、
いつも、神、
の、ほうであり、
神の子、の、ほうであり、
「私」、の、こと、
それを、
「捜し求められ」ている、神…
迷って、失せてしまった
一頭の羊、「私」、
「私」!
それを、「捜し求められ」…
やがて、最後の連、
Inter oves locum praesta,
et ab haedis me sequestra,
statuens in parte dextra.
が聞こえてくるだろうが、
素人たち、らしい、
合唱団の、
練習は、
ところどころで、引っかかり、
くり返され、
なかなか、
最後まで、辿りつかない。
…が、
来るだろう、
いずれ、
それは、来るだろう…
「羊の群れの中に私の居場所を定めてください、
「そして、牡山羊から私を引き離し、
「主の御右に立たせてください。
牡山羊、悪魔、の、
表象、図像、
そこから、
「私を引き離し」…
午後から、
次第に、
そろそろ、夕刻へ、
移っていく、
頃あいの、
曖昧な時間、
私は、(「私」!)、教会の、前に、
座ったまま、
街の、ひろがりを、
道の、何本か、の、遠ざかりを、
たぶん、
私、の、目、の、あたり、の、意識、の、ふつう、の、あり方、 を、
ぼんやりと、離れがちに、なって、
眺めて、いる…
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
「そして、牡山羊から私を引き離し、
最後の連が
聞こえてきたら、
終いまで、それを聞いて、
教会を下りて、
街の、
どこかのレストランで、
少し早い、夕餉をとろうか…
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
「あなたは私を捜し求められ、疲れてお座りになり、
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