2016年12月8日木曜日

様々なる意匠の森深くに



国立劇場の二階へは
ほとんど
上らないが
めずらしく時間があって
散歩がてら
上って
ぐるり回ってみた
日本画がずいぶん飾ってあって
小さな美術館の
静かな回廊のよう

昭和のものが多く
見ているうち
子どもの頃に浸っていた
あの時代の空気が
どの絵からも
染み出てくるようだった
特に
伊東深水の
舞う女を
描いたものなどから

小説でいえば
丹羽文雄や舟橋聖一の
ちょっと
通俗な諸作から
匂ってくるような
あの空気

つい先刻
歌舞伎のある幕を見ながら
無性に
平家物語や
保元物語
平治物語あたりに
心酔したい気に
なったばかりというのに
幕間のそぞろ歩きで
また
昭和の空気の中に
もう一度
浸り切ってみたい気にもなって

こうして
また
どこに
行くとも知れないような
様々なる
意匠の
森深くに
なおも彷徨い入って
行くことに
なるか



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