国立劇場の二階へは
ほとんど
上らないが
めずらしく時間があって
散歩がてら
上って
ぐるり回ってみた
日本画がずいぶん飾ってあって
小さな美術館の
静かな回廊のよう
昭和のものが多く
見ているうち
子どもの頃に浸っていた
あの時代の空気が
どの絵からも
染み出てくるようだった
特に
伊東深水の
舞う女を
描いたものなどから
小説でいえば
丹羽文雄や舟橋聖一の
ちょっと
通俗な諸作から
匂ってくるような
あの空気
つい先刻
歌舞伎のある幕を見ながら
無性に
平家物語や
保元物語
平治物語あたりに
心酔したい気に
なったばかりというのに
幕間のそぞろ歩きで
また
昭和の空気の中に
もう一度
浸り切ってみたい気にもなって
こうして
また
どこに
行くとも知れないような
様々なる
意匠の
森深くに
なおも彷徨い入って
行くことに
なるか
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