2016年12月28日水曜日

美しいアルバム


幸せと見えた大家族にも
衰退の時は来て
立派なアルバムが数十冊も
三代続いた輝かしい時間の数々を記録する
厖大なフォトを
口いっぱい銜えたまゝ
書庫の奥の棚に並んでいる

最後に残った二人
ひとりは
夫をはやく亡くし
三人もいた子供たちをも
かれらそれぞれの
働き盛りの壮年までに失った
老いた三女

もうひとりは
一生を通じ
縁遠かった末の弟

三女は
ひとりぼっちになったのを契機に
実家のがたがたになった
古ぼけた館に戻り
末弟は
一度も館を出たことがなく
ともに
もう70を過ぎて
よろよろと
家の中でも杖をついてさ迷う

残ってきたものの
すべて
いかにも古ぼけ過ぎて
かれら自身さえ
もう
それらには価値を認められず
新たに買ったものは
当座の便利さだけが目あての
今風の安物
もちろん
当座の使用価値以外に
価値など見出しづらいもの

こんなふうに
館の文物のどれにも
かれら自身
価値など見出せなくなっているのは
老いさらばえゆく今
逆に
慰みになるとはいえ
それでも
心のどこかで気にかかりつづけるのは
書庫の奥の棚に並んでいる
三代続いた輝かしい時間の数々を記録する
りっぱなアルバム数十冊
厖大なフォトを
口いっぱい銜えたまゝ
ていねいに
日付や場所を書き込まれ
時には感想さえ書き込まれ
結婚式
成人式
出生だの七五三だの
あらゆる行事のたびに
数を増やし続けた
膨大なフォトの数々

ヴィデオが普及する頃には
家族のほとんどが
もう亡くなっていて
若い者も生まれなくなっていたのが幸いで
ヴィデオテープや
DVDの類の記録はないものの
それでも
ポジばかりか
ネガもあわせて
書庫の三棚を占める
立派すぎる
時期時期最高のものを選んで
静かな夜を費やし
休日の午後を充てての
時間に時間をかけての
一家族三代を記録し続けた
美しいアルバム

三女も
末弟も
はやい夕食の箸をとりながら
ほとんど
口にはしないものの
心の奥では
いつかは
いつかは
そろそろ
そろそろ
ページ1ページ
破り
引き裂き
燃やしなどして
処分しないといけなくなってきていると
思い続ける
美しいアルバム
厖大な家族写真の
あれら
気の遠くなるような数々



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