ツン
とした感じが
どうしても残る
よいお家の娘さんだったのねェという
中年の女性の同僚さん
ある日
隠し隠ししながら
涙をそれとなく拭いていたので
―どうしたんです?
と聞いたら
ダンナさんが急に若年性認知症
毎日がもう格闘で
どうにも
こうにも
その日は
病院に入院させて
別れて職場に向かうのに
ダンナさん
いつまでも窓から
こちらを見つめていて
それを残して離れてくるのが
せつなくて
せつなくて
ツン
とした感じが
どうしても
残る
よいお家の娘さんだったのねェという
中年の女性の同僚さん
いつもやたらと忙しそうなので
その後も
ふだん
あまり話さないまゝだが
ひさしぶりに
―どうです、ダンナさんは?
と聞くと
「ええ
「だいぶ慣れました
「なんでも慣れるものですねえ
「でも
「すっかり子どもみたいになっちゃって
「愚図るし
「なんにもしないで寝っころがっちゃうしで
「毎日あたらしい格闘や事件やごたごたの連続で
「このあいだなんか
「お薬といっしょにお水をいっぱい飲みなさいと
「お医者さまに言われているのに
「ぜんぜん飲まないものだから
「わたし
「バケツに水を溜めてきて
「これぜんぶお飲みなさいって怒ったんです
「それでもぜんぜん飲まないから
「それなら!と
「わたし
「見せつけてやろうと
「バケツの水を頭からかぶって
「バケツにあたまガンガンしてやったら
「バケツが割れちゃって
「…で
「それでも
「やっぱり飲まないんです
と話しながら
ニコニコ笑っているので
たしかに
慣れたんだナと
見つめ直すと
肌も前より
つややかになったような
ツン
とした感じが
どうしても残る
よいお家の娘さんだったのねェという
中年の女性の同僚さん
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