2018年1月28日日曜日

朔太郎の記した言葉を借りてしまいながら



ふらんすへ行きたしと思へども
と朔太郎は書いたけれど
ふらんすへ
行きたいとなど
もう
思わないので
ぼくの旅は
はるかに
複雑
ぼくの
書くかもしれない詩は
はるかに
入りくんでくる

新しい背広を着ようとも思わないので
どこかへ
行くふりをするとなると
さあ
なにを着ていこうかと思案するが
きままなる旅にいでてみん
と朔太郎のように
呟いてみるのも
記してみるのも
わるくはない
わるくはないどころか
気持ちにあたたかく晴れ間ののぞくような
やわらかさ
うきうきさ

汽車が山に近づき
山あいを
谷の間近を行き
また
すこし離れて
遠い山なみの重なりまで
さまざまのことを
思い出すようにのぞむ時
みづいろの窓によりかかって
われひとりうれしきことをおもはむ
という
朔太郎の口吻を思い出しながら
ぼくもひとり
ぼくに
ぼくにだけ
うれしいことを思おう

五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに
ここはすっかり
朔太郎の
記した言葉を
借りてしまいながら



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