遅い時間には遅い時間の華やぎ
八重桜
肉づきのよい女の子の頬のようだったあの花びらも
もうまばらに残るだけとなった
遅い時間には遅い時間の華やぎ
桜さくら
桜たちのならぶあたり
もう緑の葉ばかり
まだ軽く
さわさわと
しかし葉ばかり
緑の葉ばかり
遅い時間には遅い時間の華やぎ
葉も あゝ 花であったね
と気づき直す
春の終わり
晩春
というのだったな
と
そう馴染みがないわけでもないのに
日常の話ことばで
あまり
使わない
使わなくなってしまった
時代時代の
なかをどうにか生き延びてきた古風な詩歌のわたしのこころが
つぶやきながら
確かめようとする
遅い時間には遅い時間の華やぎ
晩春
初夏ではまだない
ほんのちょっとの日にちの違い
数日の違い
葉桜に
みんなで成っていこうとする
桜たちのならび
ゆく末を
せきとゞめばや
白河の
水とともにぞ
春も
ゆきける
源師房*
*『後拾遺和歌集』には土御門右大臣として登場。
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