2020年4月24日金曜日

「この監督となら手をたずさえて頽廃してもいい」……



疫病が少しでもひろまらないように
店を閉めてくれ
といわれ
演劇の連中やほかの芸能連中が
ふだんならやっている催しをワンサと止めざるを得なくなったのは
しょうがないとも
大変ですねとも
参っちゃいますねとも
思わされたが

こぞって
ブンカ
ブンカ
ブンカ
と声高に言うのには
なんというか
なんというか
ねえ

じぶんたちのやっていることを
ブンカ
ブンカ
ブンカ
って

そりゃあ
ないだろうさ
って

雅楽の演奏者たちが言うのなら
かなりわかる
能狂言文楽歌舞伎の演者たちが言うのなら
かなりわかる

だが
新劇の連中や
そこらの芸能人やミュージシャンが
ブンカ
ブンカ
ブンカ
って自称するのは
ねえ

それらが
かれらが
無意味だっていうんじゃない
不要不急の最たるものだろっていうんじゃない
いなくていいものだろっていうんじゃない

ブンカ
ブンカ
ブンカ
だなんて
口が裂けても自称しないでいてほしい連中だっていうところに
最大のかれらの価値が
あったんじゃなかったのか

昭和の芸能人なら
ぜったい
おれらは河原乞食だから……
曖昧につぶやいて
わけのわからない闇仕事でもして
時を
待っただろうに

ブンカ
ブンカ
ブンカ
だから客が付いてたわけじゃ
ないだろうに
面白かったからだろうに
時間の無駄の最たるものだと思っても
見たり聞いたりしに行きたくなってしまう
どうしようもない
わけのわからぬ
媚薬
だから
客が付いてたわけだろうに

いちばん
言っちゃいけない言葉を
まぁ
どうどうと
言ったよねえ
見ていたよ

「それを言っちゃあ 
「おしめえよ…
って
よく言ってたなあ
誰かさんも


映画評論家蓮實重彦
ダニエル・シュミット『ラ・パロマ』をめぐっての
音楽家武満徹との対談において

『ラ・パロマ』を最初に観たとき思わず泣いちゃったのは、あの汽車の場面です。小津(安二郎)以来、客車の内部があんな見事に撮られたことはないと思うんですが、まずデッキからホームを見おろしてからコンパートメントに向かいあって座る、あの座席のビロードの感じとか網棚のあたりの材木の光沢とか何とも言えなくてため息をついていると、いきなり「エヴァ・ペロンが死んだ」……あそこで完全に魅了されつくして(笑)、この監督となら手をたずさえて頽廃してもいい(笑)と決意しました。*

ブンカ
ブンカ
ブンカ
などという淫猥なコトバを
ふわふわと
吐くな

客商売
なん
だろうが!

「手をたずさえて頽廃してもいい」
客たちが思ってくれているか
どうか

だけ
そこだけ

そこだけだろう?
誘惑者として
魅惑者として
心を
配るべきところは




*蓮實重彦+武満徹『シネマの快楽』(河出文庫、2001





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