彼はまたはっきりと覚えている。――
芥川龍之介『大導寺信輔の半生』
家から日本橋室町まで歩いて行き
COREDO室町3の茅乃舎でだしなどを買って
また歩いて帰ってきた
と
まとめて
言ってしまうのがふつうだが
そういう
ふつうな纏め語りを反省して
あえて
通った主な道の名で語り直せば
飯田橋・九段下界隈から専大通りに出て
靖国通りで曲がらずに
あえて共立女子大のほうへ進み
首都高池袋線に沿ってしばらく歩いてから
一ツ橋で都心環状線に沿うようにし
錦橋のあたりから日本橋川沿いに進んで
本郷通りに入って大手町入りし
林立するビルの間を抜けるうちに
ふだんはあまり歩かない「星のや東京」の前に出て
やはりいつもは辿らないNTTビルの前を経て
JR高架下を抜けると常盤橋公園に出て
おや、こんなところに渋沢栄一像が
とよく見ると朝倉文夫作で
そこから
日本橋川にかかる常盤橋を渡れば
日本銀行本店で
その前には「日本橋川」と筆書きされたものを掘った
石の柱が立っていて
誰の字かと思えば「十二代目市川団十郎」となっている
さらに東に進めば古風な三井本館の建物があり
その前には日本橋三越があって
常磐橋公園のほうから見えた
旗のはためく奇妙な塔は
なぁんだ
三越の端っこに立っている塔だったかと
分かってくる
なかなか趣のある三越の建物の前に立つと
ようやくメトロの三越前駅にふさわしい街並みだと
感じられてくる
中央通りのCOREDO室町3に入って
1階の茅乃舎で目的の買い物をする
ついでに2階に上ってみると
チタン製テーブルウエアのSUSgalleryや
清水焼の樂只園の物の並べぐあいが目につくが
それらを買うつもりで来たのでないから
入りづらいので
雑貨が並ぶ中川政七商店の
いくつかの品物のほうに近づきながら
時には手に取りながら
それでも
なんだか値が張る店だなァと
離れていくうちに
奥にある神棚の里というモダンな神棚屋にヒョーィと入って
意表をつくようないろいろな神棚を見て
店員ともちょっと話してから
さあ
また歩いて帰ろうと中央通りに出て
神田駅方面へ向かっていくと
途中
神田御蔵町へ向かう細道に
古風な凝った意匠のビルが見えたので寄り道すると
丸石ビルディングという国登録有形文化財だった
今川橋を抜けてJR神田駅まで進み
さらに進んで靖国通りに当たって左折すれば
後はもう自動的に辿って行きさえすれば家に着く
神田須田町の古くからの蕎麦屋まつやを遠くから見たり
喫茶店が多いのが目につくと思いながら
すぐに小川町の圏域に入って
スポーツ店の並ぶのを冷やかしながら
特に冬場も終わろうとする今はスケボーが特価になっているのを
こんなに売れるものなんだろうか
と感心しながら歩き進んでいけばもう神保町で
ここまで来たら
ランチョンでビールを一杯飲んでいこうかと
思うものの日曜日
たしか休みのはずなので
それじゃあ
すずらん通りのろしあ亭でボルシチでも食べていこうかと
見に行ってみると
「まん延防止等重点措置」への抗議を含ませた紙が貼られていて
とりあえず閉店とあり
しばらくしたらまた開くつもりがあると書いてあるものの
これでは
先に閉店した隣の餃子店スヰートボーヅとともに
閉店した店舗が並んでしまうわけで寂しいが
それでは今日のところは珈琲館でも行って
ホットケーキに珈琲でも合わせようかなと思って
ほぼ家に着いたも同然ながら九段下まで歩いて行って
靖国通りの珈琲館を覗くと
なぜだか若者で満員になっていて
立って待っている人たちもいるくらいなので
これじゃあダメだということで
近くの馴染みの源来酒家に入ることにして
うまい此処の餃子や点心と
昼食をとっていなかったものだから
麻婆豆腐セットも食べてみることにして
今日の出歩きは
これでようやく終わり
ということで
落ち着く
食べ終わって店を出てからは
クリーニング店に出しておいたコートを受けとり
スギ薬局ではトイレットペーパーだの
豆乳だのクッキーだのを買って
そうして
ようやく帰宅したのだった
主な通りの名を辿りながら
語り直してみたが
もちろんたくさんのことを省略して語っているわけで
いつも思わされるのだが
ほとほと「語り」というのは抽象行為であって
信頼できないペテンだと思う
私が詩歌を軽蔑し
散文を軽蔑し
文学を嫌悪するのはそのためで
言葉だの単語だの言語だのを使っているうちは
偉そうに
小賢しそうに
どんなに詳述しようとしても
けっして
断じて
B級の象徴詩の域を出ることはない
あまりに時代錯誤
あまりに時代遅れ
古色蒼然のお遊びで
あえて旦那芸や嗜みとして弄ぶのならいいものの
文弱の徒以外の者は
男子一生の仕事とするべきでは
断じてない
ところで
豆乳を毎朝飲むことにしているので
豆乳は必須なのだが
最寄りのスーパーマーケットで買うと198円(税抜)
スギ薬局だと158円(税抜)なので
なるべくスギ薬局で買うようにしている
東京メトロ九段下駅5番出口前のスギ薬局だが
そこには数年前までは洋服のAOKIが入っていて
さらに以前は書店の啓文堂が入っていた
現在都内ではやたらとスギ薬局が増殖中だが
そのうち潮目が変わったらスギ薬局もグッと引いていくかもしれず
そうなったら次に入るのはどんな店だろうか
と思いながら
まだまだ使い続けている
2009年版の
「街の達人・コンパクトでっか字・東京23区便利情報地図」
では
九段下駅5番出口前には「啓文堂」と印刷されているのを見ながら
街のすさまじい変化の速さを思いつつ
そういえば
この地図の出版社である昭文社も
家からは散策の圏内の麹町にあって
四ッ谷まで歩いて行き帰りする時などに
その前をけっこう通ったりする