2022年1月11日火曜日

少年期の終わり

 

 

遠いとおいところへ

行ってしまった

ヨー君が

ときどき糸電話で

話してくる

 

なにを言っているか

わからないのは

夢だからかしら?

 

父方と母方の

ふたつのおじいちゃんの家

どちらも裏手には

大きな柿の木があって

たまたま秋の

みごとな実りの頃に行くと

夕方の照りのみごとさ

たったひとりで見ていても

さびしさではなく

たっぷりと充実感があった

 

ヨー君は

どっちのおじいちゃんの家の

となりの子だったかしら?

長い年月が経って

ふいにわからなくなる

 

中学生になって

あまりおじいちゃんの家に

いかなくなった頃

ヨー君はお腹の病気で

急に死んでしまったと聞いたが

たしか秋だった

 

それから

長い戦争がはじまって

ぼくは都に出て

特殊加工の職人になって

戦争のさなかでも

けっこう安穏と生きていったが

ある時うまそうな柿を

八百屋で見つけて

おじいちゃんのところの柿を

ではなく

ヨー君のことを思い出した

そうして

その八百屋の娘と

恋に落ちた




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