2024年12月11日水曜日

ながい夢


 

 

ながい夢である

 

和風の家に住んでいる

そこそこ広さのある庭もあって

暖かい時期には

庭に面した戸や窓は開け放している

気持ちはいいが

夏になると蚊が出て

家の中にも入ってくる

そこで

家に近いところの庭に

蚊取り線香を三箇所ほど置いて

蚊を避けている

 

庭の二箇所ほどに

雨が降っても入らないようにして

鈴虫も飼っていた

飼育ケースひとつに16匹以上いて

この虫たちの世話も

毎日必要だった

 

若い娘さんふたりが

日常のあれこれを手伝ってくれることになった

じぶんでなんでもできるのだが

弟子のようにしてやってきて

家仕事をしてくれることになった

 

とはいえ

特にやってもらうこともないので

蚊取り線香が燃え尽きたら

灰を片づけるよう頼み

鈴虫の世話もしてくれるように

頼んでおいた

 

娘さんたちが帰ってから

庭に出てみたら

蚊取り線香の皿はきれいになっていて

白い表面に夕方のひかりが映った

新しい蚊取り線香は

付け直されてはいなかった

 

鈴虫のほうを見たら

これには

驚かされた

 

飼育ケースの中は

きれいに取り除かれ

鈴虫もいなければ

土もすっかりなくなっていて

虫の留まる木片や

中をくり抜いた小さな切り株まで

なくなっていた

 

かわりに

どういうつもりか

ふた握りほどの新しい土のかたまりが

入れられていた

 

鈴虫も土も

日々

処分してしまうべきものと

思ったのか?

 

相手が若い娘さんだからか

不思議と怒りや落胆の気持ちも湧いて来ず

驚きと呆ればかりが心に浮かび

やがて滑稽な気分になった

今の若い人たちの考えや言動は

このようなものなのかと

面白く感じてきた

 

鈴虫も土も

毎日捨てるようなことはせず

どんなに土が汚れていくように感じても

表面の食べ物の汚れや

糞の汚れを

それなりに適当に掃除するぐらいにして

虫がいっぱいいる環境の

微妙な汚さや臭いのぐあいに

堪えていくのが

虫を飼うということだと

明日は教えてやらねばならないだろう

 

蚊取り線香のほうも

燃え尽きたら

次のものに火を付けて

また煙が上るようにしておかないと

暮れがた

いよいよ蚊の増えてくる頃に

困ってしまうことも

教えてやらねばならないだろう

 

ながい夢の中の話である

 

夢こそ

娘さんたちが

毎日

きれいに洗って

すっかり取り替えてしまうような出し物だから

今日見た和風の家屋や

そこそこ広い

気持ちのいい庭に

ふたたび戻ることがあるかどうか

わからない

 

若くて

肌の澄んだあの娘さんたちが

また来てくれるか

どうか

わからない

 

 

 


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