ながい夢である
和風の家に住んでいる
そこそこ広さのある庭もあって
暖かい時期には
庭に面した戸や窓は開け放している
気持ちはいいが
夏になると蚊が出て
家の中にも入ってくる
そこで
家に近いところの庭に
蚊取り線香を三箇所ほど置いて
蚊を避けている
庭の二箇所ほどに
雨が降っても入らないようにして
鈴虫も飼っていた
飼育ケースひとつに16匹以上いて
この虫たちの世話も
毎日必要だった
若い娘さんふたりが
日常のあれこれを手伝ってくれることになった
じぶんでなんでもできるのだが
弟子のようにしてやってきて
家仕事をしてくれることになった
とはいえ
特にやってもらうこともないので
蚊取り線香が燃え尽きたら
灰を片づけるよう頼み
鈴虫の世話もしてくれるように
頼んでおいた
娘さんたちが帰ってから
庭に出てみたら
蚊取り線香の皿はきれいになっていて
白い表面に夕方のひかりが映った
新しい蚊取り線香は
付け直されてはいなかった
鈴虫のほうを見たら
これには
驚かされた
飼育ケースの中は
きれいに取り除かれ
鈴虫もいなければ
土もすっかりなくなっていて
虫の留まる木片や
中をくり抜いた小さな切り株まで
なくなっていた
かわりに
どういうつもりか
ふた握りほどの新しい土のかたまりが
入れられていた
鈴虫も土も
日々
処分してしまうべきものと
思ったのか?
相手が若い娘さんだからか
不思議と怒りや落胆の気持ちも湧いて来ず
驚きと呆ればかりが心に浮かび
やがて滑稽な気分になった
今の若い人たちの考えや言動は
このようなものなのかと
面白く感じてきた
鈴虫も土も
毎日捨てるようなことはせず
どんなに土が汚れていくように感じても
表面の食べ物の汚れや
糞の汚れを
それなりに適当に掃除するぐらいにして
虫がいっぱいいる環境の
微妙な汚さや臭いのぐあいに
堪えていくのが
虫を飼うということだと
明日は教えてやらねばならないだろう
蚊取り線香のほうも
燃え尽きたら
次のものに火を付けて
また煙が上るようにしておかないと
暮れがた
いよいよ蚊の増えてくる頃に
困ってしまうことも
教えてやらねばならないだろう
ながい夢の中の話である
夢こそ
娘さんたちが
毎日
きれいに洗って
すっかり取り替えてしまうような出し物だから
今日見た和風の家屋や
そこそこ広い
気持ちのいい庭に
ふたたび戻ることがあるかどうか
わからない
若くて
肌の澄んだあの娘さんたちが
また来てくれるか
どうか
わからない
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