2017年10月2日月曜日

満月を見て大笑いした晩



大きな体育館に住んでいたことがあった
管理を任されたのだ

大きかったから
部屋を割る必要なんてなかった
ベッドを置いて
そばに箪笥を置いて
離れたところに机を置いて
机のそばに本棚を置いて

台所としては
ドアの向こうの洗面所を使い
ガス栓は屋内の端の小部屋のを使い
湯をいっぱい沸かす時など
いったん机に戻って座っていると
湧いた感じがするから
すぐに駆け戻ったりした

廃校になっていたから
誰も来ることがなかったので
手持無沙汰な時や夜中に
よくバッハを大きく掛けていた
舞台の脇の部屋にある
プレーヤーは健在だった

インヴェンションとシンフォニアなんかを
何度も掛けていると
晩秋の夜中などにはもう
壮絶な寂しさに襲われることがあった
けれども寂しさの中を泳ぎ続けるように
ずっと音楽の中に居続けて
居続けて
居続けて
終わるとまた掛けて
また掛けて

そうして
ある時完全に悟ったのだ
これはバッハの寂しさなんだ
ぼくの寂しさでもなければ
晩秋の寂しさでもなくって

そうわかって
戸外に出てみると
明るい真丸の月がのんびりと浮かんでいて
寂しくもなんともないのだった
バッハは寂しいなあ!
この寂しさはいいなあ!
でもこんな色メガネに惑わされちゃダメだよなあ!
晩秋の月夜は寂しくもなんともないものなあ!
と大声で叫んで
ぼくはカッカッカッと
大笑いしてしまった



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